札幌・吹奏楽部指導死訴訟 同級生が証言「顧問は、一切、連絡をするなと言っていた」

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 2013年3月、北海道立高校の1年生、悠太(享年16)が地下鉄の電車にはねられ死亡した。所属していた吹奏楽部の顧問による不適切な指導を苦にして自殺したとして母親が北海道を訴えている。8月16日、同級生Cが証言した。同様の裁判で、同級生が証言するのは珍しい。

 

 この裁判で、悠太と、同級生部員Bとの間でメールトラブルがあった際、ミーティングで「顧問は、(悠太と)メールを含めて一切、連絡をするなと言っていた」と同級生部員Cが証言した。また、悠太が自殺した翌日にも、顧問が「あいつは最後までダメだった」と言っていたことも明らかになった。

 

前回の証人尋問

不適切な指導の結果、生徒が自殺か? 被告側は「全くそう思っていない」と否定

https://ameblo.jp/hampen1017/entry-12391104648.html

 

 訴状などによると、悠太は2013年1月、Bとの間でメールをめぐるトラブルが起きたとされている。このトラブルで指導を受けたのは悠太のみで、Bは指導を受けなかった。また3月にも部内で別の問題が起き、このときも悠太のみが指導された。その翌日、悠太は自殺した。

 

LINEグループにメールを貼り付け、囃し立てる

 

 Cの証言によると、一年生部員の間で、無料アプリLINEのグループが作られていた。このグループには、スマホを利用していない悠太ともう一人の部員は参加していない。そんな中、<悠太からのメール>とされる内容を、トラブルの相手BがLINEに貼り付けた。

 

C「個人的に言い合っていた感じです。内容を重要視したものではなく、面白がったり、囃し立てたりしていた」

 

 そもそも、<悠太からのメール>は、悠太自身が欠席した演奏会を聞いた感想だ。どんな思いで送ったものか。

 

C「『今回、出なかったのは休みがちで練習をしてないので、同じ土俵に立つ資格がないと思っていた。でも、できることをしたい。次に何をしたらいいのかの課題を、聞く側の立場で、アドバイスをしたい』と言っていた」

 

 Bは、さらに悠太に返信しようとしたメールの文案もLINEグループに貼り付けたという。

 

C「『もう来るな』『死ね』という暴言もかなり入っていた。周囲から『さすがにやめたほうがいい』という声が上がった。そのため、LINEの中で『送らなかった』と言っていた」

 

 2月1日、悠太だけが管理職も含む7人の教職員から指導を受けた。「殺す」という言葉が入っていたことが理由だ。しかし、きっかけとなったメールを送ったBや、LINEグループ内で囃し立てていた他の部員は議題に上がらず、指導されなかった。

 

 北海道側から開示された「職員会議録」ではこうしたメールやLINEのやりとりが記載されているが、先日の尋問では、以下の通り、生徒指導部はやりとりの正確な内容の把握はしていないことが明らかになっている。

 

原告代理人「Bが悠太さんからのメールをLINEのグループに貼り付け、一年生で共有していたことは生活指導の対象として議題になっていない?」

生徒指導部長「そこの議論は出ていない」

 

顧問は「メールを含め一切連絡をするな」と指示していた?

 

 指導の前日、悠太を部内に残すかどうかのミーティングが部内で開かれた。本人の意向よりも先に、他の部員の意見を聞いた形だ。残すことに反対の声があった一方、2年男子部員が「音楽に対する情熱は本物だ」などと言い、結局、残すことになった。

 

 顧問への尋問では「反対している生徒には『吹奏楽が好きなことは大切にしてあげよう』と部活を続けさせることを説得した」と話していた。この件について、Cはこう答えた。

 

原告弁護人「顧問は嫌がっていた女子部員を説得した?」

C「いいえ」

 

 では何を言ったのか。

 

C「(顧問からは)メールのやりとり、そもそも、SNSは禁止と言っていたよな、と怒られた。今後はメールは最低限の連絡のみ。練習の連絡だけで、私的なものをするなと。悠太くんにはメールを含め一切連絡をするな、と言ったのを覚えている」

指導は学校組織で行われていたが、「メールを含め一切連絡をするな」というのは、顧問の判断で行われた。

 

禁止されていた部内恋愛を告白。それを聞いた同級生が顧問に報告した理由は?

 

 結果、悠太が部に残ることになった。トラブル相手Bと、同級生Cの3人で話し合い、以前よりも仲良くなる。しかし今度は、別の問題が生じた。隠し事はしないことになり、悠太が部内ルール違反となる部内恋愛をしていることを告白したのを端に発する。

 

 部内には多くの細かなルールがあり、その一つに部内恋愛禁止がある。BとCの2人は悠太の恋愛を問題視し、顧問に報告した。この行為は一見、「チクリ」のようにも思えなくはない。しかし、証言を聞いていると、Cは、悠太を守ろうとしたのではないかと思える。

 

 吹奏楽部の練習時間は朝7時から始業までの間と昼休み、放課後の午後6時45分まで。ほぼ、一日中、練習で一緒の、いわば一つのコミュニティだ。

 

 メールトラブルがあったばかりで、部内恋愛も隠していたことがバレたら、悠太はさらに不利な状況になるとCは考えた。そのくらい、顧問の存在は、心理的に重い存在だった。

 

原告弁護人「悠太くんに怒られるとは思わなかった?」

C「その時は、決まりを破ったということ、恋愛禁止に反したことを報告しなかったら(顧問に)怒られると思った。(1月末の)メールの件についても、真っ先に顧問に報告しなかったので、怒られた。この問題は、先生(顧問)に報告すべきだと思った」

原告弁護人「顧問はどんな存在だった?」

C「部活のことはなんでも知っていないといけない存在」

 

顧問は「(家に悠太が来ても)居留守を使え。一切、関わるな」と言っていた?

 

 3月2日、2年生4人が同席する形で、顧問による単独の指導が行われた(教頭や生徒指導部には事後報告)。その目的は「部活を続ける条件を出してもらうため」という。ここで顧問は悠太に対し、「言葉では言い表せないことを吹聴している」と曖昧な表現で指導。部活を続けられる条件を翌日、先輩部員に決めさせると伝えた。

 

 この日の夜、悠太はCの自宅を訪問する。しかし、対応した家人が帰宅していたCに気づいていなかったため、会えなかった。Cはあとで気がつくが、Cは電話してない。翌日の部活のミーティング時、Cは顧問に「家に来たら会ってもいいのですか?」と聞いている。

 

原告代理人「顧問はなんと言いましたか?」

C「訪問とか来ても、居留守を使え。連絡が来ても応じるな。関わったら危険な目にあう。一切、関わるな、と言っていました」

 

 顧問の指示は悠太を孤立させる方向に働いているように感じる。

 

悠太が自殺した後も、顧問は暴言を吐いていた

 

 3月3日。悠太は学校に行くが、部活には現れず、地下鉄に向かい、飛び込む。一方、部活が始まる前、悠太が部活に現れないとなったときに、顧問は「もうダメだな」と言った。そのことについて、先の尋問ではこう答えている。

 

原告弁護人「あいつはもうダメだな」と言った?

顧問「はい。もう自分で(部活に来ない)選択したんだという意味。落胆の気持ちです」

 

 自殺の翌日、部員たちが音楽室に集められた。その時、顧問から悠太が亡くなるまでの経緯が説明された。そのとき、顧問は悠太に対して、暴言とも取れる発言をしている。

 

原告代理人「覚えていることはありますか?」

C「『悠太は最後まで部活を乱していた』ということを言っていた。『あいつは最後までダメだった』と言っていたのを覚えている」

 

 このことは、反対尋問で被告側代理人に「本当に亡くなった人を貶めるようなことを言ったのか?」と言わしめるほどの内容だった。

 

部員アンケート「渡す」と言っていたが、開示せず。訴訟で開示命令

 

 顧問の話の後、部員に対してアンケートが取られた。その説明は教頭がしたという。

 

原告代理人「どんな説明をしていた?」

C「教頭先生が『今からアンケートを配る』と、白紙の紙を渡された。アンケートは、親御さんに渡す、と言っていた。だから、知っていること、覚えていることがあったら、なんでも書いて欲しい、と言っていた」

 

 しかし、このアンケートは遺族に渡されなかった。その後、遺族側は、部員に行ったアンケート結果を開示するように札幌地裁に求めた。湯川浩昭裁判長は2017年7月19日、「回答者および他の生徒の個人特定情報についてマスキングを施すなどの適切な開示方法であれば、教育行政上の支障が生じるとは認めがたい」として開示を命じている。