杉田水脈衆議院議員が、同性カップルを「子供を作らない、つまり『生産性』がない」などと、「新潮45」で執筆し、SNSなどで「優生思想」だと批判が多くなり、自民党本部の前に多くの人が抗議のために集まった。子どもを作るかどうか、で「生産性」を判断をするのなら、同性カップルという視点ではなく、異性カップルであっても、子どもを作らないカップルをあげなければならない。

 

 同性カップルであっても、別のタイミングで異性の相手と設けた子どもを育てていることもあるので、ことは単純ではない。杉田議員は「「LGBT」支援の度が過ぎる」というタイトルに寄稿文の中で、一例を挙げたにすぎないのだろうが、そもそもが、性的少数者を排除しようとする意図がわかる。

 

 ただ、こうした意見、考え、思想は、杉田議員だけの問題ではない。ようやく自民党が杉田議員を指導したということだが、党内では、杉田議員を擁護する意見もあったという。

 

 私は最近、「開けられたパンドラの箱」を読んだ。

 

 

 この本は、2016年7月26日未明、神奈川県相模原市の障害者施設「やまゆり園」で、職員だった植松聖(うえまつ・きよし)被告が、施設内で暮らす障害者19人を殺害、27人を負傷させた。一人で殺害した人数としては、戦後、最も多い。

 

 重度障害者、重複障害者が入所している「やまゆり園」。そのため、植松被告が“排除”したかったのは、障害を持っている人たちだったのではないか、と思われた。しかし、『創』編集部への手紙(17年7月21日消印)ではこう書いている。

 私は意思疎通が取れない人間を安楽死させるべきだと考えております。私の考える「意思疎通がとれる」とは、正確に自己紹介(名前・年齢・住所)を示すことです。---(略)---まさに仰る通りですが、世界には“理性と良心”とを授けられていない人間がいます。人の心を失っている人間を私は心失者と呼びます。

 つまり彼の頭の中では、障害者全般が差別対象ではなく、障害者の中に、意思疎通が取れない「心失者」がいるとして、その「心失者」を安楽死させるべきと主張しているのです。その前提となる人間の定義についても、1)自己認識ができる、2)複合感情が理解できる、3)他人と共有することができるーー。

 

 とはいえ、ナチスの優生思想ではないとも言っている(17年8月2日消印の手紙)

 第二次対戦前のドイツはひどい貧困に苦しんでおり貧富の差がユダヤ人を抹消することにつながったと思いますが、心ある人間も殺す優生思想と私の主張はまるで違います。

 

 たしかに、「ユダヤ」とい民族性の属性となった人を差別や排除、抹殺の対象にしたという意味では、ナチスのユダヤ人虐殺は幅が広く、大量虐殺を産むことになるだろう。しかし、「ユダヤ」よりも属性としては狭いかもしれないが、植松被告のいう「心失者」を差別や排除、抹殺の対象とするという意味では、地続きではないだろうか。

 

 今回の杉田議員の発言は、札がに「抹殺の対象」まではいかないまでも、日本社会で性的少数者への「差別や排除」が存在することを、より強固にしようとする政治的発言なのだろう。その意味で、杉田議員の発言と、「開けられたパンドラの箱」が発売された時期が近かったのは、問題を整理しやすかった。

 

 こうした思想的背景を考えるのなら、自民党が杉田議員の発言に対して「指導」をしたのは、少数者差別を許さないという最低限の姿勢を見せたということになる。しかし、杉田議員が過去にも似たような思想を表明していたにもかかわらず、自民党が公認候補としたという現実は変わらない。

 

 

杉田水脈議員に自民党が指導 「配慮欠く」と異例の見解

二階堂友紀

2018年8月2日11時32分

 

 自民党の杉田水脈(みお)衆院議員(51)=比例中国、当選2回=が月刊誌への寄稿で、同性カップルを念頭に「子供を作らない、つまり『生産性』がない」などと主張した問題で、同党は2日、「問題への理解不足と関係者への配慮を欠いた表現がある」として、杉田氏に今後注意するよう指導したとの党見解をホームページに掲載した。同党が一般議員の問題発言をめぐり、見解を公表するのは極めて異例だ。

        杉田氏の寄稿「理解と配慮不足」 LGBT、自民が見解

 自民党は当初、「寄稿文は議員個人としてのもの」と静観する構えだった。しかし、7月27日に党本部前で大規模な抗議集会が開かれ、今週末にも各地で抗議活動が予定されるなか、党の責任を問う声が高まり、釈明に追い込まれた。

 見解では、2016年に設置した「性的指向・性自認に関する特命委員会」で党内議論を行い、「性的な多様性を受容する社会の実現」をめざし、「正しい理解の増進を目的とした議員立法の制定に取り組んでいます」と強調。16年参院選と17年衆院選の公約に掲げていることも挙げた。

 その上で杉田氏の寄稿について「個人的な意見」と留保しつつ、不適切な「表現」があると認め、「今後、十分に注意するよう指導した」と明かした。党規約に基づく処分ではない。

 寄稿は7月18日発売の月刊誌「新潮45」が掲載。SNSでは「優生思想だ」といった批判が広がったが、杉田氏は自身のツイッターで、党内の「大臣クラスを始め、先輩方」から「間違ったこと言ってないんだから、胸張ってればいいよ」「杉田さんはそのままでいいからね」と声をかけられたとし、「自民党の懐の深さを感じます」と投稿した(23日に削除)。

 二階俊博幹事長は24日の記者会見で「人それぞれ政治的立場、色んな人生観もある」と述べ、党として問題視しない考えを示した。しかし、石破茂・元幹事長や小泉進次郎・筆頭副幹事長が相次ぎ批判するなど、波紋が広がっていた。

 杉田氏は12年衆院選で日本維新の会の公認で初当選。14年には次世代の党から立候補したが落選した。以前から今回と同様の主張を公然と繰り返していたが、自民党は昨年の衆院選で公認。比例中国ブロックで比例単独候補の最上位とされ、当選した。(二階堂友紀)

https://digital.asahi.com/articles/ASL823F2SL82UTFK007.html