昨日、BS 日テレ「深層NEWS」に出演した内容の一部が読売新聞の記事になっています。

 

ネットでは別人格作れる…東大・橋元教授が指摘
2018年06月25日 23時04分
特集 深層NEWS 

 フリーライターの渋井哲也氏と東京大の橋元良明教授が25日、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、「ネット社会の闇とリスク」をテーマに議論した。

 浜松市の女性看護師が車ごと連れ去られ、遺体で発見された事件で、逮捕監禁容疑で逮捕された男たちは、ネット掲示板の書き込みに応じたという。渋井氏は書き込みの規制について「違法行為を直接、助長していないので難しい」との考えを示した。

 一方、橋元教授は「ネットでは別人格が作れるので、『俺はこんなことをやるのは平気だ』とエスカレートしやすく、軽い気持ちで犯罪に移行しやすい」と指摘した。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20180625-OYT1T50136.html

 

 ネットの中でのトラブルが殺人事件に発展するのは異例だ。しかし、私は秋葉原通り魔殺傷事件に類似する「悪意」を感じた。

 

  秋葉原通り魔殺傷事件は、もちろん、加藤智大死刑囚の生育歴も無関係ではないだろうが、ネット内のトラブルが直接の原因だった。当時のガラケーでしかアクセス不可能な匿名掲示板で居場所を見出していた加藤死刑囚が、あるときから無視されるようになった。

 

 被告人尋問で。加藤は「事件前に目的としていたのは、人を殺傷することではなく、(ケータイサイトの)『あらし』や『なりすまし』に対しての怒りを伝えること。それしか考えていない。事件の被害者までは頭に回らなかった」と答えている。つまり、ネットに出現した「あらし」や「なりすまし」に対する怒りが、事件まで発展したのだ。

 

秋葉原事件「求刑」直前 法廷で見た等身大の「加藤智大」

 

公判の最終版で、検察側は最後の被告人質問を行った。事件に対して聞かれた加藤被告は「事件前に目的としていたのは、人を殺傷することではなく、(ケータイサイトの)『あらし』や『なりすまし』に対しての怒りを伝えること。それしか考えていない。事件の被害者までは頭に回らなかった」と答えた。
 
 さらに、「遺族の証言をどう聞いた?」と聞かれて、加藤被告は「直接、その声や気持ちをうかがうことができる貴重な機会だった。自分の中で理解しようとしたつもり。理解しなくてはいけないと思っている」と話した。

 被害者の意見陳述については、「話を聞くまで(自分の)反省の弁は個々の遺族や被害者ではなく、社会全体に向いていた。それは間違っていたと気づかされた。不快な思いをさせたことを申し訳ない」と語った。

https://www.excite.co.jp/News/net_clm/20110123/Ncn_2011_01_post-221.html

 

  今回の福岡での有名ブロガー殺人事件は、誹謗中傷された「低脳先生」と呼ばれた容疑者が起こした事件だ。

 

 といっても、ブロガーのHagexが「低脳先生」と名付けたわけではない。はてなブロガーの界隈で、容疑者が「低脳先生」と言われるようになり、Hagexがそれをとりあげたに過ぎない。

 

 しかし、容疑者は、「低脳先生」と言われて怒りが湧いたのだろう。本来であれば、「低脳先生」と名付けたユーザーに対して、あるいは、より多く誹謗中傷をしたユーザーに対して怒りを覚えるのかもしれない。

 

 Hagexは「低能先生」と呼ばれた人物を取り上げ、通報した。そのタイミングで「低能先生」のアカウントが凍結された。アカウント凍結の連続によって容疑者の怒りがます原因となったのではないか。そして、「低脳先生」とばかにした誰かへの殺意が芽生える。その中で、唯一、人物を特定できやすかったのがHagexということになるのだろう。

 

  ネット上のコミュニティ内でのトラブルにより、怒りが芽生える。秋葉原事件が、匿名掲示板への怒りによって、社会一般に対する殺意になったのに対して、今回の事件は、「低能先生」と呼んでいたコミュニティメンバーへの怒りに対する殺意になった。それは、程度の差はあれ、まさに秋葉原事件の加藤死刑囚と同じ心情だったのではないか。

 


Hagexさんが生前抱いていた不安、現実に 刺殺事件
編集委員・須藤龍也2018年6月25日20時22分

 福岡市内であったIT関係セミナーの男性講師が刺殺された事件で、亡くなった岡本顕一郎さん(41)は「Hagex」の名前で活動する匿名ブロガーだったことが事件で知れ渡った。ブログはネット掲示板を引用し一言コメントを添えるスタイルで、1日5~10件ほど書かれていた。関心の高い話題は掘りさげ、逮捕された松本容疑者とみられる人物がネットで誹謗(ひぼう)中傷を繰り返していた件について「いきなり罵倒がくると、たいていの人は怖がってしまう」「お下劣な言葉を(サイト上で)定期的に投げかけられているのだが、昨日は凄(すご)かった」と問題視していた。

 一方、サイバー攻撃やハッカーに関する情報を雑誌やウェブサイトで発信し続け、古参のセキュリティー業界関係者の間で広く知られた存在だった。現在の所属先であるセキュリティー会社「スプラウト」を近く退社し、独立する意向を示していたという。

 家族で付き合いがあったというソフトウェア会社代表の山崎晴可さんは「ブログだけでは食べていけない。新しい事業を立ち上げたい」と岡本さんから相談を受けていたという。一緒に手掛けていた今の仕事は事件でお蔵入りとなった。「物腰が柔らかく、ていねいな仕事ぶりだった。ブログの文体から見える彼とは全く異なる」

 Hagexのブログは、時に相手を厳しく批判する内容も。「ネット上で色を出すために、あえて演じていた部分があったと思う。独立して岡本さんの名前とブログが結びつくことに不安があると語っていた。それが現実になってしまった」と悔やむ。

 岡本さんから取材を受けたことがあるセキュリティー会社長の岡田良太郎さんは「目立とうというタイプではなく、価値のある情報を伝えたいという裏方気質の人だった」と語る。ブログを始めたきっかけは「面白いことをしたいから」と聞いた。「メディアごとの特徴や面白さをストイックに使いこなしていた印象がある」と振り返る。

 岡田さんも講演などで公の場に立つことが多い。「実名顔出しで話をするからこそ、価値のある情報が出てくる。今回の事件は社会に損失を来し、萎縮させる脅威が身近なものとなってしまった」(編集委員・須藤龍也)