LGBT法連合会は12月23日、「一連の差別発言に対するLGBT法連合会見解」を発表しました。自治体の議員が相次いで差別発言をしたことに対するものです。



一連の差別発言に対するLGBT法連合会見解


LGBT法連合会
共同代表一同
(URL:http://lgbtetc.jp/)


 2015年11月末から12月にかけて、全国の地方自治体の議員や職員など、いわゆる公的な職務に従事する者から「同性愛は異常」との差別発言がなされ続けている。LGBT法連合会では、11月30日付で、「市議会議員による『同性愛は異常』発言に関する声明」を発表しているが、その後も差別発言が頻発していることから、事態の深刻さを極めて重く受け止め、改めて発言の不正確性や問題点について指摘すべく見解を取りまとめた。また、別紙において性的指向と性自認に関するQ&Aもまとめた。この見解をもってLGBT法連合会は、広くさまざまな人びとと連携し、差別発言を容認せず、人びとが尊重し合える社会の実現に向け取り組みを進めていく。

1.差別発言の問題性と対応の必要性
(1)学術的な不正確性
 そもそも、同性愛は異常だという考え方は、学術的根拠を持たないものである。
 第一に、生物学的に見れば、同性愛行動をとる動物は、人間に近い類人猿(ボノボやゴリラ等)を含め多く(約1500種)確認されている。
 第二に、医学的にも、同性愛は異常ではないことがすでに表明されている。たとえば、世界的に権威を持つアメリカ精神医学会による「精神障害判断基準」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)では、1990年に同性愛 homosexualityの項目が削除されている。また、同年には世界保健機関(WHO)による「国際疾病分類」(International Classification of Diseases and Related Health Problems、ICD)からも同性愛 homosexuality の項目が削除され、「同性愛は治療の対象にはならない」と付記された。なお、日本では1995年1月に日本精神神経医学会がICDを尊重するという見解を出しているため、国内での公式な医学的見解も「同性愛は精神疾患ではない」というものであり、厚生労働省もこの見解を採用している。
 第三に、日本を含めた人類の歴史を振り返ってみても、過去、現在を問わず、同性愛が文化的に受け入れられている場合が少なくなく、「不自然なものだ」という言説は成立し得ない。

(2)差別発言の影響
㈰いじめや自死を引き起こす可能性
 現状、日本社会における性的指向や性自認を理由とする差別は依然根強く、それに伴う当事者たちの困難は多岐に渡り、極めて深刻である。
 『「よりそいホットライン」報告書』によれば、平成25年度の報告書で学校や職場でカミングアウトできない人は約9割にのぼっている。平成26年度の報告書において、カミングアウトできないことにより、性的指向や性自認で困難を抱える人の約6割が職場の人間関係で悩みを抱え、そのことがいじめやハラスメントに発展するケースも報告されている。こうした悩みを職場で抱えている人のうち、約7割に自殺念慮があり、約4割に自殺未遂歴があると指摘されている。
 一連の発言は命に関わる困難を有する人びとの状況を顧みないものであり、いじめや自死を引き起こす可能性すらある、看過しがたいものである。

㈪特に子どもに対する影響が大きい
 同時に、一連の発言が、特に性的指向や性自認で悩みを抱える子どもに対して強い影響を与えていることも憂慮される。文部科学省の科学研究費によって、今年3月に国内で初めて行われた意識調査「性的マイノリティについての全国調査:意識と政策」の研究結果によれば、子どもがセクシュアルマイノリティである場合に差別意識や拒否感を持つ人は約70%、きょうだいの場合は約66%と、同僚の場合約37%、近所の人35%を大きく上回っている。前述のよりそいホットラインの平成25年度の報告書」において、家族にカミングアウトをしている人が15.5%に過ぎないことと併せて鑑みても、一連の差別発言で傷ついた子どもたちを最も支えるべき親やきょうだいの差別意識や拒否感が強いために、心に傷を負ったまま孤立を深め、著しくメンタルヘルスを害したまま放置される懸念がある。そのため、(1)で触れた危険性は、子どもたちに対してより大きなものとなる。
 このような事態を顧みず公的に差別発言を行うことは、困難を抱える子どもたちとその命を軽視することに他ならない。

(3)公的な職務に従事する者が対応する必要性
 東京高等裁判所は、1997年の「東京都府中青年の家事件」判決において、「行政当局としては、少数者である同性愛者をも視野に入れた、肌理の細かな配慮が必要であり、同性愛者の権利、利益を十分に擁護することが要請されているものというべきであって、無関心であったり知識がないということは公権力の行使に当たる者として許されない」と判示している。この判決からも公職にあるものが差別発言を行うことに対しては、厳正に対処すべきであり、研修の徹底と再発防止策の導入などの対応を要すると言える。

2.LGBT法連合会の提案する解決策
 LGBT法連合会は、2015年4月5日に発表した「性的指向および性自認を理由としてわたしたちが社会で直面する困難のリスト(通称・困難リスト)」を発表し(第2版を同年9月2日に発表)、同年5月19日には「困難リスト」の法制的な解決策として「性的指向および性自認等により差別の解消、ならびに差別を受けた者の支援のための法律に対する考え方~困難を抱えるLGBTの子どもなどへの一日も早い差別解消を(通称・LGBT差別禁止法私案)」を発表している。
 私案では、この間の差別発言をはじめとする、差別的言動や不利益取扱いの未然防止・禁止、ならびに各自治体における支援体制の構築を求めた「LGBT差別禁止法」(私案)を発表し、国会における超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」へ提出している。日本においても一日も早く性的指向や性自認に基づく差別やそれに伴う困難が解消されるとともに、適切な支援がなされる社会を作るべく、「LGBT差別禁止法」の法制化を強く望む。
 同時に、全国の自治体において、法制定に先駆けて率先して、職場研修の徹底、及び地域における性的指向と性自認の差別解消に向け、各規定の整備や家族をはじめとする周囲の関係者や援助職者に対する教育啓発などの、積極的な施策の推進を期待するものである。

 一日も早く、性的指向や性自認により全ての人が困難を抱えることなく、安全・安心かつ一人一人の個性と能力が尊重される社会を目指して、LGBT法連合会は全力で取り組みを進めていく。