家裁決定全文が「月刊文藝春秋」(5月号)で公開された神戸連続児童殺傷事件。家裁決定全文と加害者の「元少年A」の「絶歌」(太田出版)を比べると、家裁決定全文のほうが「酒鬼薔薇」らしい。「絶歌」は、ある意味で、カリスマだった「酒鬼薔薇聖斗」が普通の「中年男性」になった証なのかもしれないと思うほどだ。

 「元少年A」は、この家裁決定の全文についても、「絶歌」では触れていない。

 家裁決定全文によると、バモイドオキ神が夢に現れたのは小学校5年生だと書かれている。しかしこのことを「絶歌」では書かれていない。そもそも、バモイドオキ神について一切触れていない。なので、当然ながら、作文に書いていた「(犯行は)聖なる実験」という言葉も「絶歌」にはない。

 また、「このままでは人を殺してしまいそうや」と先生に言ったのが小学校6年と、家裁決定全文にもは載っているが、このことも触れていない。

 中1で児童相談所に行くのは共通して書かれているが、注意欠陥症と診断を受けたことは家裁決定に書かれているが、「絶歌」では触れていない。進路希望で「葬儀屋の仕事」を中3のときに書いているが、このことも「絶歌」では触れていない。

 事件前のことで「絶歌」が詳しいのは、性的サディズムのきっかけくらいなのかな。 

 家裁決定前文で「酒鬼薔薇聖斗もどこかへ消えた」とあるが、逮捕されて、もういなくなったのか。「絶歌」は、読めば読むほど、「酒鬼薔薇」ではなくなった「元少年A」、かつ、普通の中年男性なんだな。

  ということは、治療と更生後のケアはうまくいったのか?

 ただ、やはり、疑問は残る。家裁決定でも、物証がないとある。唯一の落とし所は犯行声明だったが、その犯行声明と元少年Aの筆跡の違いについて、科学捜査研究所では判断が困難で、自白が頼りだったことが、家裁決定全文には書かれている。しかし、このあたりは「絶歌」にはほとんど書かれていない。冤罪説が言われたりしたのもこの事件の特徴だ。その説を知らないわけではないだろう。犯行を認めているのなら、冤罪説に反論してもよさそうだったが、書かれていないのは残念だ。

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