第28期東京都青少年問題協議会答申素案への意見 (意見募集のサイト

1 ネット・ケータイに関する青少年の健全育成について

 「青少年にとって安全・安心な携帯電話を、都が推奨する制度を創設すべきである」とある点について。

 青少年にとって、安全•安心な携帯電話が技術的にあり得ても、ユーザーの利用法によってはいくつのも難点があり得ることでしょう。そのため、都が推奨したとしても、その携帯電話のユーザーが事件に巻き込まれない保証はどこにもない。あくまでも、技術的な制限はあるだけの話である。そのため、都が推奨するリスクがありえるのではないか。都が推奨することで、保護者への「根拠なき安心感」につながる危惧がある。
 しかしながら、できるだけ安全•安心な携帯電話はどれなのか?という関心はあることも事実だろう。そのため、法的に推奨するのではなく、あくまでも情報提供の一環として扱うべき。

 「不健全な行為を意図的に行った青少年の保護者に対し、指導・勧告等を行い、責任の自覚を促すべきである」という点について。

 不健全な行為というのは、「隠語を駆使した援助交際(売春)や買春相手の誘因、他人に害悪や迷惑を与えるメールの発信、年齢詐称によいる成人向けサイトの閲覧や販売規制品の購入など」を指すのだろう。しかし、全く別の分類ができるこれらの行為を、一律に扱うことは、問題を解決するという観点からみて効果が薄いのではないか。
 たとえば、援助交際(売春)と表現しているが、売春がからまない援助交際もあるなど、援助交際は多様な形態がある。売春があったケースだけを考えるのか、売春がないケースは放置なのか。援助交際の動機も多種多様だ。見つかれば指導されることをわかった上でしているケースの場合は、指導内容も一定程度想定している。指導や勧告の内容があいまいなままでは、当事者の大人不信を招くだけだ。
 また、条文になくても、一定の指導はされており、区別がされにくい。さらに、青少年の行為が、一律に家庭の責任にすべきかどうかも疑問がある。ケースによっても異なるが、学校や地域社会、経済状況などが絡み合っていることを考慮する必要がある。

「青少年が使用する携帯電話について、保護者が容易にフィルタリングを解除できないよう手続きを厳格化すべきである」という点について。

 「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」が既に成立している。現行法では、保護者の同意により、携帯電話のフィルタリングを解除することができるようになっている。たしかに、保護者が100%、インターネットや携帯電話を理解することが難しいのが現状であろう。そのため、保護者に対して、一定の情報提供/啓発は必要である。
 しかし、フィリタリングを外す段階か、すでに外しているかによって、保護者の理解の差があるわけではない。また、保護者の理解力の差によって、青少年のインターネットや携帯電話の利用の差が出てきてはならない。そのため、手続きの厳格化よりも、インターネットや携帯電話のポジティブな面とネガティヴな面についての、絶え間ない情報提供こそが必要だ。

 「フィルタリングから除外されるべきサイト基準について、実態に照らし、青少年が被害に遭わないものにするため、条例への規定や第三者認定機関への要請等を行うべきである」という点について。

 憲法第21条では、表現の自由があり、権力の介在を許さない。そのために、都が「健全」か「不健全」かを認定することは、憲法が保障する表現の自由に抵触する疑うがある。そのため、現行の「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」でも、フィリタリングの解除を認定する機関、つまり何が健全で、何が健全ではないのかを判定する機関は民間団体にゆだねられている。そのため、条例に直接的に書き込むことや、行政による認定はさけるべきだ。

2 児童を性の対象として取り扱うメディアについて

 「児童ポルノを始め、児童を性の対象として取り扱うメディアの根絶・追放のため、機運の醸成と環境の整備に努めるべきである」という点について。

 この理念は、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の理念に基づき、実在する児童の権利擁護を目的することは当然である。

 「国に対し、児童ポルノの「単純所持」の処罰化を強く要望すべきである」という点について。

  児童ポルノの所持は、提供や売買、拡散にもつながるため、所持を一定程度規制するのは当然である。しかし、「単純所持」を処罰化した場合の効果を検討すべきである。
 たとえば、たまたま閲覧したインターネットのサイトに児童ポルノ画像が貼付けられていた場合、閲覧に利用したパソコンにキャッシュ(残像)が残る。また、第三者から、児童ポルノ画像がメールで送信されてきた場合、メールから削除したとしてもキャッシュが残ったりする。
 「所持」をどのように考えるのかで、適用範囲が広く扱われて、処罰できる範囲が広範囲にわたってしまう。そのため、安易な「単純所持」処罰化は危険を伴う。より多くのケースを想定した検討が必要だ。
 さらに合法とされた時代の『児童ポルノ』についても、過去に所持していたことを忘れていたことも、厳密に適用すれば「単純所持」となってしまう。それらを考えると、適用範囲が拡大しすぎることに懸念を表明する。
 「単純所持」の処罰化が効果的かどうかは、すでに実施している海外の例をみても、効果的とは言えない。国連犯罪統計(2000年)によると、10万人あたりの強姦認知件数は、日本(1.78件)はアメリカ(32.05件)やカナダ(78.08件)と比較して圧倒的に少ない。イタリアの児童保護団体の調査(2007年)の「児童ポルノの国別利用者数」では、アメリカが23%、ドイツ15%、ロシア8%と比べて日本は2%と圧倒的に少ない。イギリスのインターネット監視財団の児童ポルノ発信状況によると、アメリカ54%、ロシア28%、ヨーロッパ8%、アジア7%であり、米露を中心に発信されていることがわかっている。
 G8で、児童ポルノを禁止していないのは、ロシアと日本だけであるというが、G8で、性犯罪が最も少ないのも日本である。
 これらをみても、単に「単純所持」を禁止しているからといって、児童ポルノの拡散防止に役立っているわけではない。アメリカやカナダは単純所持を禁止しているにもかかわらず、関連犯罪が多い。だとすれば、単純所持の禁止と関連犯罪の発生に、直接的な因果関係がない。

 「いわゆる「ジュニアアイドル誌」へ子どもの売り込みを行った保護者に対する指導・勧告の仕組みを検討すべきである」という点について。

 ジュニアアイドルといっても、広い範囲がある。答申素案にもあるように、幼児や小学生が水着姿でポーズをとった写真集が「児童ポルノ」として摘発されたケースがない。そのため、関連雑誌は、現行法にそった規制の範囲であり、問題とすべきではない。保護者への指導•勧告の内容について検討することは必要かもしれないが、過度な指導•勧告がなされることは反対である。あくまでも、現行法の範囲内で行われるべきだ。

 「児童を性の対象とする漫画等のうち、著しく悪質な内容のものを、追放の対象として明確化するとともに、「不健全図書」の指定対象に追加すべきである」という点について。

 漫画については、現行法では、禁止規定はない。あくまでも、現行の児童ポルノの禁止規定は、実在する児童であって、実在しない児童(漫画、アニメ、ゲーム、小説など)までは禁止していない。つまり表現の自由を制限すべきではない。
 また、こうした漫画やアニメ、ゲームがあるからといって、青少年の性行動、性への考え方が、以前と比較して、また別の地域と比較して、著しく偏見に満ちている、あるいは、関連する性犯罪が多いという信頼できる報告はどこにもない。
 表現の自由にかかわる項目であり、慎重であるべきだ。かりに、「不健全図書」として指定する場合、判断理由について明確にし、表現者や出版社などが異議がある場合、公開の場で審議でうる機会を与えるべきだ。

 「児童・生徒の性行為を描写した、小・中学生を対象とする「ラブ・コミック」を、レーティング(推奨年齢の表示)の対象とすべきである」という点について。

 レーディングについては、「追放」よりも一定の教育的な理由が存在することがある。すでに、おもちゃやゲームではレーディングは受け入れられている。しかし、これも誰がどのようにレーディングするのかを明確にし、表現者や出版社などが反論できる機会を与えるべきだ。つまり、透明性の確保、異議申し立てのシステムを確保すべきだ。
ケータイ・ネットを駆使する子ども、不安な大人―肥大化するインターネット。コミュニケーション装置.../渋井 哲也

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