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 「秋葉原事件から1年 ロスジェネの逆襲か?」 JPNews 09.06.12

 秋葉原の通り魔殺傷事件から1年が経ちました。事件をきっかけに中止になっている歩行者天国(ホコ天)は再開のめどが立っていません。事件は多くの人の心に刻まれています。

 一年前の2008年6月8日の正午過ぎのこと。元派遣社員の加藤智大被告(26)はトラックを運転し、秋葉原の歩行者天国に突っ込み、横断中の男性3人を轢き殺したのです。またトラックから降りた後、タガーナイフで男女4人を殺害したのです。

 犯行直前に、電子掲示板に「秋葉原で人を殺します」と予告していたことも話題になりました。事件後、インターネット上の犯行予告によって検挙・補導件数は86件にも及びました。大半が10~30代でした。

 「いま?秋葉原にいませんか?通り魔事件があったんです」

 あの日、雑誌記者から第一報が入りました。私は新宿におり、インターネットで出会った人たちと自殺する「ネット心中」をしようとしていた中年男性の家族に話を聞いている時でした。

 取材が終わり、現場に駆けつけると、騒然としていました。後から友人に聞いた話ですと、犠牲者の中には、友人の女友達も含まれていました。彼は亡くなった女性の葬儀に参列したようです。

 この事件に関しては様々な論点で語られました。格差社会、派遣労働、ロストジェネレーション、非モテ、おたく、孤立した若者、携帯電話によるコミュニケーション、教育過剰な子育て、サカキバラ世代(神戸連続児童殺傷事件の犯人・酒鬼薔薇聖斗と同じ世代)などがテーマになっていたのです。

 昨年は通り魔殺人が目立った年でした。そのひとつ、3月に起きた、茨城県土浦市のJR荒川沖駅で1人を殺害し、8人にけがをさせた事件などで、殺人などで問われている、金川真大被告(25)は、秋葉原事件を「うらやましい」と述べています。犯行方法や殺害した人数を考えると、加藤被告は死刑になる可能性が高いからです。

 というのも、金川被告は水戸地裁の被告人質問で、犯行動機について、「死刑になるため」と答えています。つまり、自殺するために、死刑相当の事件を起こしたのです。週刊朝日の、手紙のやり取りを整理した「100問100答」でも、「死は怖くありません。しかし、苦痛やイヤなのです」と述べています。

 就職氷河期世代のことをロストジェネレーションといいます。なかでも、1993年から2005年の12年間、日本での有効求人倍率は「1」を超えませんでした。その前後も就職は厳しい時期です。つまり、景気後退と労働派遣法の改正によって、正社員として雇用される人数が激減した時期です。加藤、金川の両被告は、まさにその世代なのです。

 00年前後、取材した高校生や大学生の口から出たのは「将来への希望がない」という言葉でした。「いい学校、いい就職、いい家庭」を目指して勉強を頑張ってきたものの、就職氷河期を迎えたことで、学歴が就職を保障しないことを実感した世代です。

 また、親世代の「年収」を超えることも、ひとつの「目標」でしたが、その「目標」に到達することが困難な世代でもあります。戦後、日本社会が目指してきた「安定」を得られなくなったのです。

 もちろん、「絶望」を感じたからといって、すぐに殺人に向かった人たちは多くはありません。19歳以下の殺人事件での検挙者は、71~74、85、89、98~01年に100人を超えましたが、人口10万人あたりの比率では、71年以降、「1」を超えたことはありません。

 どちらかといえば、殺人ではなく、自殺願望を抱いたり、自傷行為をする若者が増えたのです。暴力性は「他人」ではなく、「自分」に向いたことになります。金川被告の場合は、暴力を「他人」に向け、死刑を望み、間接的に暴力を「自分」に向けた消滅願望の現れ、ということになります。

 加藤被告の動機はまだ自身の口からは語られていません。東京・小菅の東京拘置所に拘留されていますが、弁護人以外の面会には応じていないといいます。報道機関からの手紙にも目を通していないともいい、公判で明らかにされるでしょう。

 22日には公判前整理手続き(裁判官、検察官、弁護人が初公判を前に審理計画を立てる話し合い)が行われます。犯行動機は、本当にロストジェネレーションの逆襲だったのでしょうか。(了)