陽が落ちると

月の姿をうつして

運河は光りはじめる

岸壁にちゃぷちゃぷと押し寄せる

海水のわずかな揺れは

まるでゼリーが固まりかけて

いるようにみえるし

黒光りするうねりは

蛇の群れが

蠢いているようで怖い

 

運河は人の想念の吐きだされる場所

昔、誰かがそう教えてくれた

この世で果たせなかった想いは

泡沫となり

悲しみの河に融け入る

人々の邪念は

渦まきながら河を下る

幾すじもの支流は

大きな本流となり

河口へと吐きだされる

永遠に行き場のない苦しみを抱いて

やがて運河に沈む

闇夜に運河に近づいてはいけない

冥界のものに

こころを取りこまれてしまうから

 

群雲隠れの月が完全に姿を消し

闇が支配すると

運河はさらに息づいてくる

海水はどろりとしはじめ

水じたいにいのちが宿ったように

だれかを手招く