会社の執務室で倒れ、救急車で運ばれたのは、5月9日のことでした。

異変があったのは、転職してきたばかりの新人社員を溶け込ませることを意図して、談笑をしていた時。
急に頭にもやがかかり、身体が霧に包まれたような感覚に陥りました。膝から下の力が抜けていくのを感じ、これはまずいと思い、「ごめん」と会話を突然中断して、二歩先の自席に倒れ込むようにしてもどりました。椅子に座って我が身を観察すると、今度は手からも力が抜けていき、頭痛も始まり、意識が遠くなると同時に、軽い吐き気が襲ってきたのが分かりました。

指先の感覚がふわふわして覚束ないのが恐ろしく、もしかしたら急に感覚が無くなって動かせなくなってしまうのではないか?という思いが脳裏を横切り、しばらく指を握ったり開いたりを繰り返しました。指が動かなくなることはなかったのですが、身体全体がぼんやりとして我が身ではない無いような感覚は消えず。しかも、足にはあまり力が入らず、数秒おきに意識が遠くなります。

ふいに思い出したのは、前日から、パソコンのタイピングの際に指の動きに違和感があったこと。しかもじれったいな、とイライラする頃には指先に何とも言えない痺れも。この日も朝から、タイピングが妙に遅くてイライラしていました。

指先の痺れ、力が抜けて感覚が覚束なくなる手足、そして遠くなる意識と吐き気・・・
これって、脳梗塞かもしれん。
椅子に座ってからそう思うまで、1分弱だったと思います。
思い切って左斜め前のデスクにいた先輩に声をかけました。

「すみません、●●さん。俺、ちょっとまずい状況かもしれません」
この時の私は、椅子に上手く座れておらず、姿勢もきちんと制御できておらず、斜めにそっくり返ったような姿勢でした。

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後ろの席の後輩がすぐに異変に気づいて、「こういう時は、#7119です!」とすぐに伝えてくれ、先輩が電話をしてくれました。
救急相談センターのオペレーターからの質問を先輩が繰り返し、椅子に斜めに座った私が逐一回答する間に、課長と部長が「どうした?」。

私は、斜めにそっくり返った状態のまま、経緯を話しました。
「お騒がせしてすません。ただの貧血かもしれませんが、人生で貧血になったことがないので、判断ができません。手足がぼやぼやした感覚なのと、昨日から指先に痺れがあったことを考えると、よくない状況かもしれません」。

「指先に痺れがあったなら、脳かもしれない。素人判断で過小評価しないで救急車だ」
課長のその判断で、救急者を呼ぶことになりました。

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5分後にはもう救急車が到着し、私は執務室内で車いす担架に乗せられ、救急車の中へ。
時々意識が遠くなることに恐怖を感じながらも、車いす担架で救急スタッフに運ばれる姿を執務室内の上司や同僚、後輩たちに見られ、「これで何でもなかった、それはそれで会わせる顔がないぞ・・・」と別の意味で青ざめるような感覚を覚えてもいました。

(続く)