いい本に出会えました。
船曳建夫(2007):「右であれ左であれ、わが祖国」 です。

衰え始めた超大国アメリカ、
EU圏に閉じ始めたヨーロッパ、
間違いなく再び超大国への道を進む中国、
再度、強国化、専制化の向きを強めたロシア・・・
冷戦後の国際的な枠組みが崩れ、日米同盟さえ維持していればよかった日本も、新しい立ち位置を求めて手探りが続けられているのが現在です。

これを受け、日本を巡る数百年の国際関係史を俯瞰し、今後の羅針盤を探ろうとする試みがあちこちで見られます。
しかし、なかなかピンと来るものに出会えませんでした。

いたずらに日本の古い価値観の賛美に努める意見(「国家の品格」)や、有効性の分析もなく中国に対しては江戸時代の鎖国的な戦略を撮れとする論説(「大丈夫な日本」)、アメリカの衰退を過小評価し日米同盟の強化で対処できるとする主張(岡崎久彦ら)、中国のしたたかな戦略を考慮せず東アジア共同体への礼賛(朝日新聞など)、日本のソフトパワーの強さにのみ着目した考え方(ジョセフ・ナイなど)などなど・・・
いずれも、一理はあるものの一理以上はない、という印象でした。

どの意見も、最近数百年の日本を巡る国際史を俯瞰して、そこから普遍的な日本の成功モデルを得ようとしているのですが、そこで提示される成功モデルが、どうもに一面的に過ぎるのです。

その点で、船曳建夫の「右であれ左であれ、わが祖国」は出色でした。
日本の成功モデルは1つでは無く、「国際日本」モデル、「大日本」モデル、「小日本」モデルの3極に類型化されるとの指摘は目からウロコです。
国内に閉じこもった江戸時代の「小日本」モデル、アジアの覇権国となった明治・大正・昭和初期の「大日本」モデル、国連中心外交で国際社会で優等生として振舞った戦後~平成時代の「国際日本」モデル。日本の成功モデルは1つではなく、その時々の日本の国力と、周囲の国際情勢に合致したモデルを採用することで、局面を切り抜けてきたわけです。

成功モデルは1つではない。しかし無数に成功モデルがあるわけではない。
国ごとに線形代数で謂う基底ベクトルとにあたるいくつかの主要な成功モデルがあり、国力と国際情勢の変化に合わせ、その組み合わせが必要なのだ。

・・・言われてみると当然過ぎて脱力してしまいますが、とても包括的で多面的で分かりやすい考え方だと思います。

羅針盤の総論はこうです。
・経済面では、人口減のため退却戦にならざると得ないものの、「大日本」であろうとする努力を続ける。
・文化面では、むしろ「小日本」の発想が産むコンテンツの魅力をグローバルに広める。
・東アジアという最近100年間、日本が「大日本」モデルを適用してきたエリアでは、「国際日本」モデルを適用する。
 (「大日本」モデルと「大中国モデル」を衝突させるのではなく、東アジアに国際社会を作り、
 その中に「大中国モデル」を絡め取ってしまう。)

さらに著者は、(1)対アメリカ、(2)対中国、(3)対朝鮮半島、(4)対その他アジア、(5)対ロシア・ヨーロッパ、(6)対台湾、(7)対伝統的日本、の観点から日本の羅針盤を述べています。
なかなか示唆深い内容です。

日本の行く末に不安を持った時、手に取るべき一冊だと思います。

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右であれ左であれ、わが祖国日本/船曳 建夫
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