朝風呂からあがって携帯電話を見ると、見知らぬアドレスからメールが来ている。
なんだろう?
お、マハルからだ!
マハルは、はみ唐さんが4年前ロンドンで1ヶ月過ごした時に知り合ったアラブ人(正確にはイエメン人)。
最近はメールのやり取りも途絶えがちになっていて、本当に久しぶりです。
翻訳するとこんな感じ。
「ハイ、はみ唐。こちらマハル。まだ覚えている? そして元気? しばらくぶりだけど、新年が近づいて、急に君に挨拶をしたくなった。仕事はどうだい? プライベートはどう? 君に関するいいニュースを聞かせてよ。とにかく、いい新年を。君の友人マハル」
マハルらしく、相変わらずブロークンな英語が懐かしい。
早速返事を書きました。翻訳するとこんな感じ(のつもり)。
「親愛なるマハルへ。もちろん覚えているよ。実際のところ、君と過ごしたロンドンの日々はとても印象深いからね、忘れることの方が難しいよ。仕事は調子がいい。今年はいくつか大きなプロジェクトをやり遂げた。プライベートは、君と違って結婚はまだまだ。今年は、空手を再開したんだ。体力が若返ったから、4年前、グリニッジで君と組手した時より強いかもしれないよ。
君からEメールをもらうことができてとても嬉しい。君はどうしている?新しい年が君にとってよい年であることを祈っているよ。君の友人 はみ唐」
メールを書きながら、マハルと過ごした4年前のロンドンの光景が、それこそ走馬灯のように甦りました。
* * *
4年前のこと。
転職を機に、英語のブラッシュと長年の夢だったビザンチン帝国遺跡めぐり旅行のため、いまの室長に入社を数ヶ月待ってもらい、欧州に飛びました。
ロンドンで1ヶ月ホームステイをしながら英語学校に通い、その後、イスタンブールに飛んで1ヶ月かけてロンドンまで旅をする。
いま思い出しても夢のようなプランです(笑。
マハルと知り合ったのは、英語学校の食堂。
細身なのに、2人分のランチを軽々と食べる若いアラブ人。食べっぷりに苦笑していたら、目があってしまった。そのときのマハルの言葉は今も覚えている。
「At last my monster TANK is FULL.」(やっと、俺のおばけタンクも満タンだ)
面白そうな奴。
授業は違ったけれど、それから毎日のように、マハルと彼の友達たちと食堂で落ち合い、くだらないことを話し、そして学校帰りにロンドンの名所を回る生活になりました。
* * *
あるときはグリニッジまで足を伸ばし、なぜか空手の話になり、しかも組手をすることに。
グリニッジの芝生の上で、空手の技を交える日本人とアラブ人。
第三者が見たら怪しかったに違いない。
ちなみにマハルの空手は伝統派の流れ。おそらく松涛館の系統でしょう。見事な横蹴りを見せてくれました。お礼にこちらからはローキックを教えてあげました。
またある時は、
マハル:「(大声で)大きな声じゃいえないけど、イギリスの飯はまずいと思う。」
はみ唐:「そうだね。でも、フィッシュ&チップスは美味いらしいよ。」
マハル:「じゃあ、食べに行こう!」
さっそく2人で旅行ガイドに載っているフィッシュ&チップスの店に行ってオーダー。
ところが、出されたフィッシュ&チップスを食べていると、次第にマハルが不機嫌に。
はみ唐:「どうした、マハル?」
マハル:「はみ唐、これは、フィッシュ、アーンド(←ここ強調)、チップスだ!」
はみ唐:「そうだよ。フィッシュ&チップスだよ。」
マハル:「そういう意味じゃない。料理というものは、いくつかの素材の味が交じり合って、新しい味を生み出すものだ。なのに、これは単なる、フライドフィッシュ(揚げ魚)とチップス(揚げポテト)だ。ただ同じ皿に載ってるだけで、何も新しいものを生み出してない!」
なるほど。
マハル:「食べたことはないが、日本の寿司だって、そうだろう?ただ魚とライスを並べて寿司になるか?」
はみ唐:「ノー。寿司は、魚とライスが新しい味を生み出す料理だよ。」
マハル:「やっぱり!アラブの料理もそうだ!もうこの店は出て、アラブ料理の店に行こう!」
まだ食うのかよ!(結局行きました)
マハルは、元気で明るくて屈託の無くて誰からも愛される若者(当時21歳)。
愉快な友達ができて、はみ唐さんも、笑いが耐えない日々でした。
* * *
それが、ある日を境に変わりました。
忘れもしない、2001年9月11日。
テロリストによってハイジャックされた民間旅客機が、アメリカのWTCビルに突っ込んだ、あの日です。