やさしい嘘 出会い/3
コンコン
ドアをノックする音が響いた。
「はーい。」
そう秋人が言うと、ガチャっと扉が開き流人が部屋に入ってきた。
スリッパを履いた流人はペタペタと足音を鳴らしながらベッドにドカッと座った。
「痛っ。…って流人どーした。」
読んでいた雑誌から目を離すと、そこには不機嫌そうな流人の顔があった。
「…なんでもないっ。」
つっけんどんに言い放つ流人に、秋人は優しく笑った。
「なんでもないじゃないだろー。ほらほら兄ちゃんに話してみろって。な。」
何で流人が不機嫌なのか予想は付いていたし、何よりなんだかんだ弟が心配なだけに頼ってこられると悪い気はしなかった。
「…もうやだよ。秋人はこのままでいいんでしょ。」
「だから何がー。あー…、裕子さんのこと言ってるなら俺はいいよ、別に。」
そう言うと、流人は首をふった。
「違うよ…。裕子さんはいいんだ。他の誰かが父さんと結婚するなら、裕子さんでいい。」
「んー。そうだな。偉いな流人。」
「本当にそうじゃないんだ。じゃなくて、…父さんのことだよ。」
流人は躊躇いがちに話し始めた。
「最近…やっぱり父さん変だよ。裕子さんとは何度も会ってたけど、もう絶対結婚はしないって言ってたのに急だったし…。」
「それにっ…今回のことだって。今まで旅行だって危ないからって禁止してきたのに、都合良すぎるし。なんか…企んでる気がする。」
そこまで聞いて、秋人は流人の背中をポンポンと叩いて、安心させるように笑った。
「そんな訳ないだろう。考えすぎだって。流人だってちょっと位旅行楽しみだろ。」
「そうだけど…。」
まだ流人は納得できていないようだった。
「まあ、父さんだって新婚気分楽しみたいんだよ。俺たちが毎日いると新婚って感じにならないだろ。だから、今回は我慢してあげよ。な。」
そう言って笑う秋人の笑顔に安心させられたのか、流人は自分の部屋に帰って行った。