歯を1本抜いた話は、先日書いた。入れ歯にすることになって待っていたら、歯科医で2週間ぐらいで、できあがってきた。保険がきいて出費は約4000円。

 大きさは3センチほど。歯茎と同じピンク色の山形の土台の上に直径5~6ミリの樹脂の歯が載っている。両側には針金の輪が2つ付いていた。この輪を、抜けた歯の両側にある歯に引っかけるのだ。ただ、他人にとってはあまり気持ちのいい絵柄ではないので、写真では紹介しない。

 「なかなか可愛い入れ歯じゃないか」と思いながら、看護師に促されてはめてみる。カチッと小さな音がして、ぴったりはまった。寸分違わない仕上げ。さすが日本の技工士は優秀だ。看護師さんは「自分の歯とは別なブラシで磨いてください。それから、総入れ歯とは違う洗浄剤を使ってくださいね」と続ける。

 そのまま家に帰ってきて、何かをしているうち、入れ歯の存在を忘れていた。小ぶりなこともあって、ほとんど舌などには触れない。これなら、入れ歯君ともうまくやっていけそうだ。そう思った。

 ところが夕飯時になって、いろいろ食べてみると、どうも具合が悪い。食べ物の食感や味、香りに集中できず、口の中に「異物」があるようないやな感覚に気が散って美味しくない。一言で表現すれば「カニの身をカニの殻と一緒に食べている」ような感覚だ。ついに耐えきれずに、入れ歯を外してしまった。

 そんなことを何度か繰り返し、食事時には「入れ歯を外す」という習慣ができてしまった。食事時に外す入れ歯って、何の存在価値があるのだろう。そして思い出したのは、医学番組か本かで知った「歯が抜けると、隣の歯が寄ったり、噛み合わせていた歯がとび出てくる」という話だ。だから、食事時は外しても、寝ている間ははめたままにしておいた。ところが、それを仕事仲間に話したら、「寝てる間に外れた入れ歯を飲み込んだら大変だから、外した方がいいよ」と脅された。

 実はもう20年近く前にも、入れ歯を使わなくなった「前科」がある。新しい入れ歯君もいつか、机の引き出しの中にしまい込まれて、忘れられる運命にあるのか。みなさんはどう付き合っているのだろう。誰か、いい方法を教えてくれませんか。

                        (2024.5.23 風狂老人日記)