イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書「ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来」(2022発刊、柴田裕之訳)上・下巻をようやく読み終えた。政治学、宗教学、動物学、生化学、遺伝子工学、人工知能学などたくさんの分野の膨大な知識とデータに基づいて考察された人間の未来像。それは、目眩がするほどショッキングで、想像を超えていた。すでに読み終えている読者は多いだろうが、私なりの理解と、感想をざっくり書いておきたい。

 ハラリ氏によれば、サピエンスは数万年前から大勢が結びつき、他の人類や動物より優位に立つことができた。いまや野生動物は激減し、人間と家畜が大型動物の9割を占めている。さらに農業革命が起き、書字、貨幣というものが発明され、交易が始まって国ができる。「共同主観的な現実」というものがあるから、お札が紙屑にならずに買い物ができたり、ソ連という国が「合意書」の署名によって、一瞬に消え失せるということが起きる。

 しかし、「神が死んだ」というフリードリッヒ・ニーチェの言葉を借りるまでもなく、中世までは善悪や学問の基軸だった神への信仰は弱まり、「人間至上主義」が世界を覆うようになってくる。社会主義に勝った資本主義が、「客(消費者)は常に正しい」との理念のもとに、利益を拡大する「成長」を続けていけば「天国」が地上に実現すると進み続けている。

 人間至上主義は、美や真実も、神によって生み出されるのではなく、人間自身の中に存在するという。何かを知りたければ、聖書を開くのではなく、「自分の心をのぞき込め」と、芸術家は人間の内面や感情を描くようになった。

 チャールズ・ダーウィンの「進化論」と結びついた人間至上主義は、「優秀な人間が劣悪な人間を乗り越えていくのは善」だとし、民族論と結びついてナチスの思想につながった。

 そしていま、人間至上主義は、急激に発達しつつあるテクノロジーと結びついて、今世紀中にも、サピエンスの飛躍的な進化を実現しようとしている。それは主に2つの方法に集約される。

 1つは肉体改造技術の発達に支えられる「テクノ人間至上主義」。遺伝子工学によってDNAの書き換えを行い、電極ヘルメットや薬物などの開発によって脳の働きに影響を与えて新たな「認知革命」を起こす。そしてサピエンスは神に近い能力を持つ「超人」(ホモ・デウス)に生まれ変わる。その超人は、現在の人間とはまったく違った心を持つ生物になっている可能性すらある。

 もう1つは、インターネットなどのウェブ(くもの巣)によって、世界中すべての情報がつながる「データ人間至上主義(教)」だ。いま世界では、どんどん情報化が進んでいる。確かに情報化が進めば、莫大な利益をもたらす。しかし、すべての情報が一つにつながったら、自分についての情報も、自分よりこの巨大なウェブが知っている状況が生まれかねない。もはやプライバシーなど存在しない。そしてウェブは、家畜のように人間を管理、支配しかねない。

 読み終えて思ったことは、人間の未来は、あまり楽しそうではないということだ。そして、何度も言っていることだが、地球温暖化や、ウクライナ侵攻などの国際的な分断、民主主義の危機などの災禍は、地球そして人類を破滅に導きかねない。私が生きている間に、少しでも解決の道に向ってほしい。  (2024.3.7 風狂老人日記)