テレビや新聞などで、タチウオ(太刀魚)が釣れているとの情報がもたらされ、一度挑戦してみたいと思った。いつも釣りの技を教えてくれる先輩Hさんに話したら、「難しいけど、面白いよ」と大乗り気。横須賀市・大津港の釣り船を予約した。いつもやっているボート釣りでは行けない沖まで出る。

 8日の東京湾は、前日の大風と打ってかわって風も波も静かになっていた。ほかの釣り船も結構出ていた(写真上)。

 平日なので、大きな船に、釣り客はわずか8人だ。走り出すと、エサをもらおうと、カモメの群れがどこまでも追いかけてくる。15分ほど走って私たちが釣り出すと、近くの海面に浮かんで、じっと待っている。

 天秤(てんびん)に1本の鉤(はり)、エサはサバの切り身だ。船長の「60メートルから50メートル」との指示で、深さを調整する。魚を誘うために、深さ60メートルの地点から、竿を煽りながら50メートルまで少しずつ巻き上げてくる。そしてアタリがなければ、また60メートルまで落として繰り返す。これが結構、大変な作業だ。

 というのは、私が釣り船店で借りたのは、手巻きのリール。80号の重りをつけているから、軽めのダンベルを何度も持ち上げているのに等しい。私の上腕二頭筋はくたくたに疲れてくる。Hさんはどうだろうと見ると、ちゃっかり、電動リールを使っているではないか。ずるい。

 そのうち、Hさんが1匹釣り上げた。でも「ドラ3」長さ60~70センチのサイズだった。ドラ3のドラとはドラゴン(竜)を指す。太刀魚が竜ににているからだという。3は指3本ほどの幅(5~6センチ)の意味で、大物はドラ5~8で、体長も1メートルを超えてくる。「初めての釣果だから、写真を撮らせてください」と頼んだが、Hさんは「こんな小さいのはいやだよ」とそっぽを向いた。

 ところが、そこから5回ぐらい場所を変えて釣ったが、Hさんは全部で4度、私は2度ほどしかアタリがなかった。こんなに喰いが渋くては、どんな腕前でも釣れない。しかし、帰り間際、釣りの神様が私を哀れに思ったのか、35センチのイシモチ(シログチ)をプレゼントしてくれた(写真下)。ほかの釣り客はほとんど坊主だった。こんな日も、たまにはある。いったいタチウオはどこに行ってしまったのか。

 Hさんはかつて、やはり船釣りでタチウオを10本も釣り上げたことがあるそうだ。その成功体験が忘れられないのだろう。「絶対、今度リベンジしよう」と、悔しがることしきりだった。               (2023.11.10 風狂老人日記)