朝7時に目覚めると、厚手のカーテン越しに太陽の光が部屋を明るく照らし出していた。そうだ、きょうは、ほぼ1年ぶりにハゼ釣りに行くんだった。道具を点検すると、浮子(うき)と板重りが見当たらない。どうせ釣具店にエサ(ジャリメ)を買いに行かなければならない。朝食をいそいで済まし自転車にまたがった。

 土曜日とあって釣具店は混んでいた。海の大物釣りの客は多いが、私のような川釣りの客は見当たらない。赤とオレンジの丸浮子、板重り、ジャリメ1箱(40~50匹)で締めて1150円。自宅から自転車で10分の釣り場で、「安・近・短」の趣味を満喫したいのだ。

 去年も訪れたT川。河口から約2キロの白い橋がかかるポイントに到着した。1投目にかかったのは手のひら半分ぐらいのコトヒキ。コトヒキはまるで楽器の琴のように体の側面に縞模様がある。

 それからもコトヒキが2~3匹続いて、そのあとググッと手応えがあった。左右に走り回るのは、ちょっとハゼとは違う。上がってきたのは20センチほどのスズキの子だった。秋はこうした外道がよく釣れる。

 近くの小学校から、軽快な音楽が聞こえてきた。どうやら運動会らしい。私の将棋教室に参加している小学生たちも、この小学校ではないが、やっぱり今日が運動会だと言っていた。そのうち、「黄色い旗の下に集まってください」というアナウンスが聞こえて「ひとーつ、ふたーつ」と数がかぞえられていく。40を超えるまで数えている。たぶん「玉入れ」の競技で、入れた球を数えているのだろう。昭和の小学生だった私も、運動会の玉入れを思い出した。

 うーん、まだハゼが上流まで上って来ていないのか。いやいや、もっと上流に行っってしまったのか。頭の中であれこれ考え始める。浮子を上下に動かし、魚を釣る深さ(棚)を何度も調整する。そのとき、ググッとアタリがきた。軽く合わせる。結構な引き。上がってきたのは、20センチ弱の立派なハゼだった。いた!やっぱり間違っていなかった。

 青い空には、鰯雲やうろこ雲ではない「夏の雲」が浮かんでいる。でも、風は爽やかに吹き、色づき始めた木々の葉を揺らしている。最高の釣り日和だ。ハゼはそれから5匹釣れた。昨年より1匹多いし、どれも大きい(写真)。秋の恵みをいただけるのはなんと幸せなことか。外道を合わせれば15匹。1回食べる分には十分すぎる数だ。

 運動会の音楽はいつの間にかラジオ体操に変わって、そして止んだ。どうも、昼食休憩のようだ。私も家に帰って昼飯といこう。(2023.10.21 風狂老人日記)