オリーブ油や卵がなくなって、買い物に出る。降りしきる雨の中、高台からスーパーにつながる細い階段を降りていった。うっそうと茂る林に囲まれた240段の階段には、茶色の落ち葉が積もり、雨に濡れて美しい。まだ、10月だというのに肌寒く、辺りに紅葉も見当たらず、一足飛びに「晩秋」になってしまった趣だ。

 その落ち葉の中に、一目で分かる独特な模様が埋もれていた。それは体長30センチほどの蝮(まむし)だった。私は一瞬身構えたが、蝮はピクリとも動こうとしない。傘をたたんで、その先を近づけても反応はなかった。どうやら、死んでいるらしい。階段を通る人に踏まれないように、脇に除(の)けてやった。

 私が住んでいる戸建ての団地は標高40~50メートルあり、蝮や百足(むかで)も住んでいて、よく見かける。この蝮もかつては元気に暮らしていたのだろうが、猛暑がこたえたのか、エサがなく飢えたのか、命を落としてしまったらしい。

 そういえば、知人に「癌(がん)の知らせ」が目立つ。仕事で一緒だった70代後半の男性は大腸癌が見つかり退職。転移した胃まで全摘出する手術を受けた。別な会社で同僚だった60代の男性も大腸癌が見つかり、近く手術を受ける。ステージ2だというから、命に別状はないだろう。将棋仲間の70代男性は最近、胃の腫瘍を摘出したが、幸い良性だった…。

 9月はがん制圧月間とされている。今年は長い猛暑のせいか、体力や免疫力が落ちている人が癌に罹患するケースが増えているのではないか、と勝手に思っている。

 医学の進歩で生存率は上がってきているのだろうが、ひとたび癌に罹患すると、当然、死と向き合うことになる。70代の男性が「孫娘の結婚式に出るまでは、まだ死ねない」と言った言葉を思い出す。

 癌に罹患するかどうかは分からないが、私もいつか治らない病気にかかってこの世を去るのだろう。そのとき、死をどう受け入れるのか。自然体でいられるのか。

 人生でも「晩秋」を迎えている。「落ち穂拾い」のように、日々ささやかな楽しみを拾い集めて暮らす余生だが、そろそろ死を受け入れる準備を始めなければならないのだと思う。                   (2023.10.9 風狂老人日記)