きょうNHKのBSで映画「シンドラーのリスト」(1993年)をやっていたので視聴した。私はこれまで見たことがなかった。スティーヴン・スピルバーグ監督が、ナチによる迫害(ホロコースト)から実業家オスカー・シンドラー(1908~74)が1200人のユダヤ人を救った実話を描いたもので、ほとんど全編がモノクロで制作されている。モノクロのせいか、色彩のうるささから解放される反面、血や死体などの色が、むしろ鮮明に脳裏に浮かび上がる気がした。

 シンドラーは、当時オーストリア領だったメーレン(現チェコ領)出身だった。ナチの党員となって、ドイツ軍に納める食器(鍋、釜)を作るホーロー器工場を経営。商売柄、軍関係者とも酒宴などで関係を深める。

 しかし、幼いころ遊び仲間だったユダヤ人たちを迫害するナチのやり方に疑問を持つ。自分の工場で1人でも多くのユダヤ人を雇うことで、迫害から救えるのではないかと思い始めた。それでも軍部は、女性や子供を含むユダヤ人をアウシュヴィッツなどの絶滅収容所へ送ろうとする。シンドラーは軍部との人脈や賄賂を駆使して、収容所送りを阻んだ。その闘いの一つ一つが見る者の胸に突き刺さる。

 ラストシーンが印象に残る。戦争が終わり、ナチ党員で戦争協力者だったシンドラーが「逃亡のために工場を去ろう」というとき、ユダヤ人の従業員代表が、シンドラーを擁護する署名簿と指輪をプレゼントする。指輪には「一人の人間を救う者は全世界を救う」と刻まれていた。

 それを見たシンドラーは「もっと努力したら、もっと財産があったら、もっと救えた。このナチの金バッチ1つでも、もう一人救えたんだ…」と涙を流した。

 映画を見て、こう思った。

 ナチに虐殺された約600万人のうち、シンドラーが救ったのはわずか1200人だ。いや、そうじゃない。1200人も救ったんだ。人間一人一人の命は数じゃない。一人ひとりの命が救われ、それぞれの人生を選べることが、「平和」ということなのだ。

 ウクライナ侵攻から400日たった。この映画をプーチン大統領にも見てもらいたい。そして1日も、いや1秒でも早く侵攻をやめてもらいたい。そうすることが、一人でも多くの命が救われることなのだから。                               (2023.3.30 風狂老人日記)