久しぶりに鳥の話を書く。というのも、きょう鎌倉市内で、面白くもちょっと怖い光景を目撃したからだ。

 それは午後2時ごろだった。私の前を歩いていた20代ぐらいの女の子が、「キャッ」と悲鳴を上げた。と同時に空から大きな影が急降下してきた。何かが道にバラバラと落ちた。女の子はそのまま小走りに逃げる。落ちたものは、袋に入ったフライドポテト。ジャガイモをいくつかに切って揚げたもので、私のところまで、その香ばしい匂いが漂ってきた。

 急降下してきたのは、羽を広げると70~80センチもありそうなトンビ。ポテトが落ちてしまったためか、そのまま急上昇していなくなった。ところが、落ちたポテトを狙って、今度はカラスが数羽、舞い降りてきた。まさに路上で繰り広げられる「仁義なき戦い」だ。

 やはり弁当をトンビに横取りされた知人に聞いてはいたが、実際に目撃すると、びっくりした。鎌倉市内には、トンビの被害に注意を呼びかける看板があちらこちらに掲示されている。とにかく女の子にはけががなかったようなので良かった。路上で歩きながらの飲食は狙われやすい。ときどき訪れる鎌倉では、1羽のカラスが八百屋さんに侵入して、果物をくわえて出てきたところにも出くわしたことがある。観光地は食べ物の多い場所だから、鳥もすっかり「ギャング化」しているようだ。

 鎌倉ではないが、釣りをしていると、よく鳥がやってくる。最近は用心するようになったが、

餌のアオイソメを箱ごとカラスにさらわれたのは、これまで2回ある。カラスは頭がいいから、箱をこぼれないようにくわえ、私が追いつかない距離の、小高い場所まで飛んでいくと、私の動きを監視しながら食べている。本当に憎らしい鳥である。

 可愛げのあるのは、青灰色の体に朱色のマフラーを巻いたようなイソヒヨドリ。私の近くまでくると、いかにも餌がほしいように、ちょこまか歩き回って関心を引く。イソメを投げてやると、そろそろと近づいて、おいしそうに食べる。そのあとも何度かおねだりし、イソメを3~4匹せしめると、お礼のつもりなのか、美しい羽根を広げ、ピーピーと澄んだ声で鳴きながら飛び去る。

 昨秋のことだった。横浜のある釣り公園で、一羽のハトが私のすぐ近くまでやってきた。イソメをやったが、食べようとしない。近くにいた常連の釣り人が教えてくれた。「昼飯時におこぼれをもらいにくるんですよ」

 虫は食べず、どうやら釣り人のおにぎりやパンをあてにしているようだ。早朝から出かけてきた私は、昼には帰る予定で、昼食は持ってきていない。そして、気づいた。そのハトはなんと一本足だった。

 常連がいうことには、釣りの糸が足に絡まった傷が原因で、片足になってしまったらしい。その後は、この公園で、釣り人の施しを受けて暮らしているのだという。どういうわけか、このハトは私に寄り添うようにしてぺたりと座り込み、海を見ている。ハトの寂しさが、伝わってくるようだった。

 今もまだ、1本足のハトは、あの公園にいるのだろうか。寒さが増し、釣り人はずいぶん減っただろうに。                              (2019.11.29 風狂老人日記)