今日は、目覚まし時計と風鈴を買いに、隣の街まで行った。目覚まし時計はすぐ買えたが、風鈴では、「あそこには売っているだろうな」と思った金物店が見当たらない。その店があった通りを二往復してみたが、やっぱり見つからない。その店があった辺りには、見慣れない関西系の飲食店が出店していた。やはり経営難で閉店してしまったのだろうか。

 自分が住んでいる街に戻って、風鈴を売っていそうな店を尋ねて歩いた。「昔はO屋という家具店で売っていたけど、つぶれちゃったからね」と、ある店主は答えた。また、別な店主は「少し先の陶器屋さんに置いてあった気がするけど」と教えてくれた。よし、そこに行ってみよう。

 風鈴を買おうと思ったのは、NHKのテレビ番組で、日本人は風鈴の音を聞くと、実際に体温が下がるという実証実験をやっていたからだ。外国人に風鈴の音を聞かせても体温が下がらないが、日本人は全員(わずか3人だけだが)0.1~0.3度下がったのである。クーラーをガンガンたかなくても、体温が下がるなら、これにこしたことはない。

 くだんの陶器店に入ると、風鈴の音が鳴り響いていた。「やったー」。汗だくになりながら歩いてきた甲斐があった。

 高いところにぶら下がっている風鈴を品定めしながら、レジのすぐ前で、ほかの客に対応している店主を待っていると、後ろから来た50代ぐらいの女性が横から小鉢をレジに出した。店主は、私を差し置いて、その女性の勘定を始めた。

 思わず声が出た。「え、おかしいんじゃないの、俺はさっきから待ってるんだけど」。どうやら、その女性はこの店の馴染み客らしい。

 店主は、「すみません」といいながら、笑っている。それが私には余計に腹が立った。

 わざわざ店に足を運ばなくても、大概のものはインターネットで買える昨今だ。そのほうが私としても楽だ。でも私は、根っから「古い人間」だから、店で実際の品物を五感を使って確認し、商品の特徴や使い方について情報交換をしてから買いたい。気持ちよく買い物をして、できるなら2度、3度と訪れるお得意様にもなってあげたい。ところが、客の順番を間違えて(いや故意だろう。私は目の前で待っていたのだから)勘定するような店に2度と来る気になるだろうか。とてもリピーターにはなれそうにない。そんなことも50を過ぎた店主は分からないのか。店として生き残っていくためには、それぐらいの気遣いはイロハのイだろう。

 まくしたてたい気持ちを抑えて、結局は女性の勘定を先にしてやった。

 店主は「ご迷惑をかけましたから、20円安くします」という。

 「そういう問題じゃないんだよ。本当にこのバカ店主は分かってないなー」

 そう心の中でつぶやきながら店をあとにした。

 やれやれ、家についてシャワーを浴び、風鈴を下げてみた。リーン、リーンと鳴り始めると、あーら不思議。体温がスーッと下がって、つまらないことも忘れていくようだった。やっぱり私は日本人。まさに「パブロフの犬」だった。            (風狂老人日記 2019.7.28)