画面の向こうで、女子アナみたいに声の通る女性がハッと気づいた表情をする。

「あ、私メガネしちゃってますね!あと、今日会社のあと、ジムに行って筋トレしてシャワー浴びて来たので、今ノーメイクなんです。ちょっと化粧加工できてないから、戦闘力落ちてますが、安心してください、栗尾ですよ♡」

 

何か話さなくては・・クリオネちゃんのすっぴんの顔に驚いて言葉が発せなくなっていることを悟られてはいけない・・・洋子は焦った。あと、あれ?筋トレ?と洋子が疑問に思った時、また栗尾が言った。

 

「申し遅れましたが・・・私、ブスなんです♡

眉は、サロンに行ってるので、バッチリなんですけど、あ、眉ティントおすすめですよ〜♡

でも、整形はしないって決めてるもので・・目がね・・小さいんです。普段は色々アイテープしたり職人並みのアイメイクのスキルで仕上げてるんですけど、ノーメイクの目はめっちゃ小さいんですよね。母からもしじみのような目って言われていました。あ、しじみって宍道湖で取れるやつですよ。宍道湖は、六ですよ、八じゃなくて。答えわかってるのに、漢字で間違うって勿体無いので、悠斗くんも気をつけてね!意外に公開テストの正答率低かったりするんだわ。六よ、六!」


ごめん・・・いっぱい喋らせてしまって・・ごめん・・洋子は申し訳なくなった。そして

「悠斗、3科選択なんだ・・クリオネちゃん社会も取ってたのに、3科で50傑とか・・ほんと・・すごいね・・・」

絞り出すように洋子は言った。

どうしよう、気まずい、もっと、もっと何か・・・洋子の焦りがピークに達したその時だった。

 

「なんで?可愛いのに」

 

まさかの悠斗だった。


「栗尾さん、お肌白くてツルツルしていて、まるでゆで卵みたいで、綺麗だよ。なんでそんなに自虐的なこと言うの?可愛いのに。」

 

栗尾も目を大きく(当人比)見開いて、驚きのあまり黙っている。


悠斗はハッとして

「もしかして、自虐的の使い方間違ってたかな?ほんと、国語、頑張って知識分野の達人になります!」

といった。

 

「合ってるよ、使い方合ってるよ笑 ありがとう。嬉しいわ。悠斗くんが大人になって、まだ私が独身やったら結婚してくれるかな!?」

と栗尾が言った。

「それはすみません。僕、彼女いるから・・・」

「そこはいいとも!じゃないの!そっかアルタも無くなったし…。失恋した笑 本日2回目。そうそう彼女いたよね。じゃ、Vクラスいけるよう、まず復テで点取れるアドバイスしたいから、範囲教えてもらえますか?」

本日2回目、に引っかかりながらも、洋子も慌てて浜学園国語テキストの「知識分野の達人」をスキャンしてZOOMで画面共有をした。

 

「今回の範囲、漢字ばっかり。あと、画数、筆順も大量だね。」

「そうなんです!こんなん覚えるの無理ですよね!!」

悠斗は怒ったポーズをする。

「いやいやいや、考えて、これは努力したら報われる範囲だよ。ラッキーだよ、むしろ。やったらやっただけの結果出る。逆に努力しなかったら取れない。」

栗尾は長い髪をぐるぐると巻いて、大きなクリップで留めて気合を入れるポーズをした。


「努力・・めっちゃ辞書引くとかですか?」

「うん、正統派でいいけど、時間ないから、それは電子辞書買うか、お母さんに代わりに引いてもらって。その時間で、悠斗くんは、しっかり覚える。覚え方も、単に見るだけじゃなくて、口で発音したり、手で書いたり、いろんなアプローチの仕方で覚えて。その方が記憶に残りやすい。時間かかるから書くのは本当にどうしても覚えられないやつだけでもいい。私も手を使ってややこしい暗記物を覚えたりしたんだ。それで、何回も試験中に手が覚えてて、勝手に答え書き出したことあるよ!」

「え〜、本当?すごい!!」


「あとは一気に覚えない。少しずつ続ける。暗記は頻度。ゆーっくり、じーっくり一ページずつ時間かけてやるんじゃなくて、1回目はさっさっさと流す。そこから何回も何回も繰り返して深めていく。ミルフィーユってケーキみたいに重ねて、重ねていくの。相性が悪くて覚えられないものも出てくるけど、潰していく。お母さんに必殺ノート作ってもらって。必殺ノートが何かは、佐藤ママの本を熟読しているお母さんなら知ってはるから。あと、今回の範囲で言うと飛行機の飛の筆順とか出やすいよね〜。わたし何回もテストで見たことあるわ。たくさんテキストに載ってる中でもみんなが勘違いして覚えてる漢字、間違えやすいポイントが出題されやすいんだ。」

「わかりました!!」

クリオのアドバイスを洋子も横でメモる。

 

「公開も理科で60以上の偏差値は取りたいところやけど…今回は時間なくてサイエンスを全部復習とか無理やから、ヤマをはります」

「え!?そんなことできるの!?」

悠斗がびっくりして大声をあげた。ヤマをはる、なんて洋子も意外だった。


「たとえば、夏の公開に夏の大三角出たことない?冬の公開に昆虫の冬越しとか、七草出たことない?」

七草に洋子が反応する。

「ある!あるわ!私、スーパーで七草粥セット売ってたのに、もうお粥とかいちいち作るの

面倒だわと思って、ミールキットで済ませてしまったら、公開テストに出て、あの時にスーパーで七草買ってたらもしかして点取れたんじゃないかと悔やんだ思い出が・・」


「そうです。結構季節だったり、バランスを見て出題されたりするので、意外にヤマはれたりするんですよ。ヤマをはるのは別に悪いことではありません。時間ないなら尚更出そうな単元から勉強して点をとりに行くべきです。

先月の公開の理科の問題、またpdf…」

と言いかけて、栗尾が自分のスマホの画面を見てハッとした表情を浮かべた。

「あ、先輩、もうスマホのカメラの画像でいいので、過去の公開テスト、LINEしていただけたら、出題予想単元をまたLINEしますので。それではもう夜も遅いので、お肌のためにそろそろ寝ます。せっかく悠斗くんが褒めてくれたゆで卵の肌守ります♡ではでは、おやすみなさい♡」

 

電光石火な終わり方だった。

ZOOM会議は終了しました、の文字を見て顔を見合わせる洋子と悠斗であった。

 

続くびっくりマーク