スタースタースター浜学園物語「100傑の彼女」スタースタースター

 

17時過ぎのデパ地下はとても混んでいた。

普段なら仕事でヘトヘトの身体で、人混みをさすらうくらいなら、

コンビニでいいやと思ってしまうところだが、今日の洋子は違う。

 

今日は奮発してデパ地下で息子・悠斗のための塾弁を買って浜学園へ持っていく

と先週から決めていたのだ。

 

キラキラと輝く宝石のショーケースみたいな洋菓子の売り場を抜けて

お惣菜売り場にいく。

「やっぱ、トンカツ弁当かな。浜学園という戦場で、悠斗に復テで勝ってもらわないと

いけないし」とつぶやき、1000円超えの弁当を選ぶ。

塾代も高いし、交通費、飲食代、文房具の他にも、良いといわれる市販の参考書や

東大理Ⅲに4人の子供をすべて合格させた神様みたいな母親の著作といった受験ノウハウ本なども

色々購入してしまっている。

 

「中学受験って思ったよりもお金がかかる・・・」

何気なく独り言を会社でつぶやいたところ、フリーアドレスでたまたま隣の席になった

東京本社からの出張者の大先輩ママ社員がぐるんと椅子を洋子の側へ回転させた。

「いい?佐藤ちゃん、関西も過熱気味とは思うけど、都内の中受よりマシだから!

SAPIXよりマシ!うちなんかいくら使ったか怖くて計算してない!

だって6年になってから成績下がってギリファになったこともあったし、

不安過ぎて秋からなんて寝れなくて、命の母と胃薬が友達だった!

サピ代の他に、御三家の合格菌のついたとかいう中古の受験グッズをメルカリで買うのにはじまり、

個別でサピのフォローもお願いして、1万くらいする家庭教師とかも頼んだし、受験コンサルの

悩み相談とかも受けたよ。

冬からはW出願とか、不安から第三志望の入学金を振り込み期限よりも全然早く振り込んで無駄にするとか・・・あの金で何が買えたか!!

もう最後の方は頭おかしくなってたから!!お金使いすぎて、いまだに会社も辞められないから!!」

と一気に息継ぎなしで、まくしたてられてしまい、「さすがっす、先輩!またいろいろ教えて

ください!」というのが精一杯だった。

 

トンカツ弁当を持ち、浜学園へ向かいながらいろいろ考える。

うちもそうなるのかな・・・いやいや、うちそんな最難関目指してないし・・・

6年になってHクラスからSクラスにクラスアップしていて、むしろ好調?

まぁ最難関は無理でも、難関中にはいけるんじゃないかな♪

それに”結愛ちゃん”という浜学園でかわいいガールフレンドもできたっぽいし。

同じクラスって言ってたから、お弁当届けるついでにちらっと見れたりするかしら・・・

 

「あの~いつもお世話になります。佐藤悠斗の母です。お弁当、こちらに置かせていただきます」

受付で挨拶すると事務員の山田がにっこりと会釈する。

弁当を届けに校舎に入るのは久しぶりだ。塾弁を作れないときは、大抵は悠斗にコンビニで

何か買ってもらうことにしている。

 

ふと前回の公開学力テストの成績優秀者の名前を貼りだしている掲示物が目に入った。

最初はびっくりしたのだが、浜学園では100傑、つまりテストで100位以内に入った

生徒の名前を実名で、教室名や性別とともに貼りだすのである。

「昭和みたい!!いいの?こんな令和の時代に個人情報とは・・・」と思いつつも、

あんなに難しいテストなのにほぼ満点近くの成績をおさめている子供たちの名前をチェックしてしまう。たまに名前を伏せて※印でだれかわからなくしている子もいるが、すっかり中受の世界に

染まった洋子はもはや「悠斗が万が一、100傑に載ったら絶対実名掲載してもらう!なんなら

こっそり写メとってばぁばにLINEして送りたい」とまで思うようになっている。

 

「1位、あ~いつもの子だわ。すごいなぁ。やっぱり灘とか行くのかしら。うんV1クラスか。

大きい校舎だからクラスもV1、V2とかたくさんあるのね。」

こんな優秀な子ってどんな子なんだろう。親はどんな教育してるんだろう。浜学園にも低学年

から通ってたりするのかしら・・・知らない優秀な子の想像をしてしまう。

「あ!え!?この校舎からも100傑入っている子がいる!!すごい!!灘志望!?」

こんな小規模校舎で、100傑に入る子がいるんだ・・すごいなぁ・・と洋子が名前をチェックしようとした瞬間、後ろから話しかけられた。教室長の畑田だった。

「そう、今回、うちの校舎も100傑入りしたんですよ。花咲結愛さんっていう子でね、

悠斗くんとちょうどいま一緒のクラスで授業受けてますよ。」

畑田がちらっと教室へ目をやる。

目線の先には眼鏡をかけてポンポネットっぽい上品な洋服を着ている女の子が

真剣な瞳で講師の説明を聞いていた。

 

同じクラスというから、てっきりSクラスの女の子だと思っていた。

そうだ、この校舎は小規模だから、VSクラスといって、Sクラスと上位クラスのVクラスが

同じ教室で授業を受けるんだった。

100傑の彼女なの!?

やばいじゃん、悠斗、フラれない!?

よくわからない想いが洋子の頭を駆け巡る。

 

続く笑