書き出し小説 61〜70日目
61日目
婚姻届を出す前に、一冊ずつ本を持ち寄り交換する。それが僕達の約束だった。
62日目
牛丼にたまごを付けるかどうか迷ったが、やっぱり付けないことにした。ヒーローはいつでも金欠なのだ。
63日目
階段とエスカレーターがあったら階段を選ぶ。生卵とゆで卵があったらゆで卵を選ぶ。ずっとそんな風に生きてきた。
64日目
自分の名前でネット検索をしようとしたら、検索予測で名前の後にネタバレという単語がついたものが出てきた。好奇心で検索ボタンをクリックしたら、今度は僕が生まれてから死ぬまでに起こるあらゆる出来事が書かれた年表が表示された。
65日目
特急列車の運転手になりたいと思ったのは、高校生の時に部活の遠征で東北へ行ったときだ。全員が同じ方向を向いて座り、目的地に向かって一直線に走り出す。なんとも素晴らしいことではないか。
66日目
猫が何もないところをじっと見つめている時は、人間には見えない何かを見ているらしい。今朝から誰に挨拶しても返事をしてもらえなくなった俺は、今6匹の黒猫に囲まれてじっと見つめられている。
67日目
訳も分からないまま社長になった。今日から中途採用で働くことになったこの会社では、どうやら勤務年数が浅い人ほど上の役職に就くことになっているらしい。
68日目
デジャブが起こるとき。それはストレスがたまってるときだっけ。それとも脳が休めていないときだっけ。ともかく、僕は最近デジャブをよく体験する。
69日目
近年AIの発展は目覚ましく、ついには人間の代わりに生きてくれる人工知能付きのロボットが開発された。
70日目
毎日通勤時間中にここからバスケットの朝練に励む少年を見ていたが、それも今日で見納めだ。今の会社に勤めて36年、私は今日定年を迎える。ところで、あの少年はどうして36年経っても少しも歳を取らないのだろう。
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