書き出し小説 31〜40日目
31日目
関係者の中でもごく少数しか知らないことだが、この街の信号機には隠しサインがある。サインに気付いた俺はスマホのカメラアプリを起動させた。ヤツらが来る。
32日目
犯人は分かった。問題は、ここからどうやって別の奴を犯人に仕立てあげるかだ。
33日目
声の大きさですべて決まる。謝る時は相手より少し大きな声で謝れ。そう教えてくれたバイト先の先輩は、今では世間を大きく騒がせる存在になった。先輩の名前が出ると、僕はTVのチャンネルを変える。
34日目
「猫の手も借りたい。」と確かに言ったが、まさか自分の手が猫の手になるとは思ってもみなかった。
35日目
すべての通知をオフにする。僕のリハビリはそこから始まった。
36日目
「いくらやっても仕事にならない。どれだけ成功しても金にならない。それでも、お前はこの世界に飛び込んでくるんだな。」
彼が何を言おうが、私の返事はもう決まっていた。
37日目
「僕が弱いわけじゃない。君が下手くそなだけだ。」
モニターに表示された見慣れたウインドウの中に表示されたのは、今まで見たことのないテキストだった。
38日目
彼女はモニターに表示された56という数字を指差して言った。
「みんな何度も死んでいるのよ。誰もその事を覚えていないだけで。」
39日目
「みんな違ってみんないい」という言葉があるが、俺からしたら人間の声の種類は突き詰めると十数種類しかない。一人飲みしている俺の隣から聞こえてくる声は、高校のときの同級生と同じ声だ。この声は今朝電車の中でも聞いた。
40日目
「そんなもの一枚で語り尽くせちゃうもんなんだよ、人の一生なんて。」
そういうと彼女は葉を手放した。葉は瞬く間に風に舞いどこかへ飛んでいった。
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