24.「ディストピア」
賑やかなパレードの音が聞こえる。
駅から専用のシャトルバスに乗って入場口に近づくと、そこはすでに夢の国だった。
「どうしたの、勇人?せっかく遊びに来たのに浮かない顔しちゃって。」
さっきまでガイドブックを見ながら熱心に今日のルートを試行錯誤していた絵梨が尋ねた。
「いや、別になんでもないよ。今日は乗りたいアトラクション全部乗ろうぜ。」
昔から、遊園地が苦手だった。
「さあ楽しんでください」とばかりにわざとらしく作られたこの楽園が、何もかも嘘くさい。
何もかもが「人を楽しませるため」に作られたこの中で俺たちが感じる気持ちは、本当に俺たちのものなんだろうか?この絵梨の笑顔は、本当に本物の笑顔なんだろうか?
何か、大切なことを忘れている気がする。
そんなことを考え始めたら、なぜかいつも急激に眠くなる。そんな時にまどろんで見る夢は、いつも同じ夢なんだ…。
「大変です!No.96874、工藤勇人の睡眠レベルが低下しています。現在睡眠レベル強化中…、よし、戻りました。」
白衣を纏った研究員が、安堵のため息をついた。
「また覚醒寸前か。96874だけではなく、ここ数年で他にも何人かの被験者にも同じようなことが起こり始めた。」
人類文明6800年の叡智の結晶、スーパーコンピューター「HALL」の管理の元、人類の8割は肉体を眠らせたまま意識は仮想世界の中で生活していた。
各々が自分の理想の世界を脳内で作り出し、そこで自分のアバターに意識を繋げてその世界を現実として生きて、そしてその世界の中で死んでいく。
開発国は、この仮想現実を「ユートピア」と名付けた。
「ユートピア内で何か問題が起きているのでしょうか?」
「いや、それはない。ユートピア内での問題なら複数の被験者が同時に覚醒寸前になることはない。彼らがが見ているユートピアはそれぞれ別の物なんだからな。」
「だったら、まさか…?」
「おそらく、問題が起きているのはこの現実世界だ。」
ユートピアの被験者からデータを集めて、さらなるユートピアを作り出す。「HALL」が実行しているのは、終わりのない徹底された管理社会だった。
「与えられた幸せに抵抗するとは、愚かな奴らだ。」
「HALL」が世界を管理するようになってから800年。与えられた幸福に、用意された仮初めの理想郷に疑問を感じ抵抗し始める者たちが現れ始めた。後に一人の被験者の覚醒をきっかけに、この世界は崩壊の一途を辿ることになる。