18.「青」
私が見ているあの空の色は、他の人が見ても同じ色に見えているんだろうか?
私の感じる青色と、隣に立っているメガネのサラリーマンの感じる青色は本当に同じ色なんだろうか?
逆転クオリアっていうんだっけ?こういうの。学生時代にどこかで聞いたことあるけど、結局その答えは曖昧なものだったような気がする。
学生時代かぁ。気が付けばもう10年くらい前になるんだ。この前まで大学生だと思っていた私も、気が付けば30歳を超えてすっかり大人と呼ばれる歳になってしまった。
仕事もプライベートも特に問題がある訳ではないし、何かが足りない訳じゃない。でも、毎日が満たされているという訳でもない。
だから、こんな風にふといろんなことを考えてしまう。これがサーティーブルーというものだろうか?
10代や20代の前半の頃は時々「先が見えない不安」というものを感じていたけど、今は仕事も生活も、そして精神的にも安定してそんな不安を感じることはなくなった。その代わり今度は日々の繰り返しから「未来の自分が簡単に想像できてしまう」という恐怖を感じることがある。
昨晩、失恋したマリを「この次はきっとうまくいくから」と慰めながら、心の中ではどうしてもふと思ってしまっていた。
「この次はいったいいつ来るの?」
信号機の色が変わった。立ち止まっていた人たちが一斉に歩き始める。ボーッとしながら突っ立って考え事をしていた私も、つられて前に歩き出す。さっきまで私の隣に立っていたメガネのサラリーマンも、私より少し前を歩いていた。
なんでだろう?みんなが同じ方向を向いて歩いていると思うと、なぜか少し安心できる。みんなが、あの信号機の色を合図に歩き出す。
結局は、みんな同じようなものなのかもしれない。「この次」がいつ来るかなんて分からないけど、私たちは自分から歩き始めることしかできない。この生活を続けながら歩き続けることしかできない。これが、大人になるということなのだろうか?
横断歩道を半分くらい渡ったところで、信号機に表示されたライトが点滅し始めた。私は自然に早足になる。もうすぐ、ブルーが終わる。