15.「すごろく」 | enjoy Clover

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三つ葉を伝える路上詩人じゅんぺいのブログです。
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15.「すごろく」


またバイトをクビになった。理由は分かりきっていたし、自分でも納得もできていた。この前深夜に来た酔っ払いを怒鳴り散らしたからだ。そりゃお客様に対してする言葉遣いじゃなかったさ。だけど仕方ないだろ?ムカついたんだから。


今回がコンビニ、この前はラーメン屋、その前はパチンコ屋。いつも同じことでトラブルを起こしてクビになる。なぜかいつも俺のところにはクソみたいな客ばっかりが来るんだ。これは俺のせいじゃないだろう?良いお客様ばかりだったら俺だってヘコヘコ接客してやるさ。これはあれだね。完全に運が悪いね。俺のせいじゃない。神様のせいってやつさ。それなのに、俺がまた自分でバイトを探さなきゃいけない。


これってきっとあれだ。「ふりだしに戻る」ってやつだ。どれだけ進んだと思っても、また最初からやり直しになっちまう。きっと神様は俺の人生のすごろくを作るのに嫌なマスばっかり作ったんだ。


なんかそう考えたら、やる気なくなってきた。だってそうでしょ。俺がどんなに頑張っても、結果は運次第なの。そして俺に運がないのはもう証明済みなのよ。だったら頑張るだけ無駄じゃん?


そんなこんなで、新しいバイトを探すためにスマホをポチポチするはずが、いつの間にか風俗サイトを見てたわけよ。「アルバイトしたくて電話しました」というところを「あのサイト見て電話しました」なんて言っちゃうわけですよ。ご丁寧な電話でしょ?数々の嫌なクレーマーを見てきたから、客としては俺すごく良いお客様なの。


コンビニバイト最後の給料を握りしめて入ったレンタルルームに呼んだ女の子に対しても、もちろん俺はいいお客様だよ。とりあえず最初は当たり障りない世間話でもするわけさ。これがまた、いろいろ話を聞いてみるとその子も運が悪いのなんのって。どれくらいって、もう並みのレベルじゃないわけよ。信号で毎回赤に引っかかるとか、お弁当買ったのに箸が入ってないとか、バイト中に嫌な客ばっかり来るとかそんなものとは比べ物にならないくらい運が悪いの。そりゃもうここでは書けないくらい。


それなのに、頑張って働いてるんだよ。立派なもんさ。何たって人の心と体を癒す仕事だぜ。たぶん「死ぬ前に一回遊んどくか」ってやけになった自殺寸前のやつに「やっぱりもうちょっと頑張ってみるか」て思わせたこともあるに違いない。人の命を救う可能性だってある仕事だ。この娘は神様の作ったイジワルなすごろくにもイジワルなサイコロにも負けずに頑張ってるんだ。俺とは大違いだね。今度面接で「尊敬する人は誰ですか?」て聞かれたら「風俗嬢です」て答えてやろう。


なんか俺もさ、「負けてらんない」て思ったんだ。その娘にじゃないよ。神様にさ。こんなイジワルで不平等なすごろくを作った神様になんか負けてられないのよ。俺もあの娘も。


だから、俺は俺でまたサイコロを振らなきゃ。誰かが作った世の中を外からギャーギャー文句言ってても何も変わらない。結局は俺は俺でサイコロを振り続けるしかないのさ。何回ふりだしに戻っても、サイコロさえ振りゃまた進めるんだ。


だから俺にはもう怖いものなんてないね。だって人生はすごろくなのよ。分かる?一応みんなゴールは目指してみるものの、結局は遊びなわけ。ゴールに一番乗りしたやつじゃなくて、遊び終わった後に「あー楽しかった」て言える奴が本当の勝者なの。そう思うと、神様がイジワルで用意した嫌なマスもなんだか面白く見えてくるよね。


そんなこんなで、俺はもう一度スマホをポチポチして新しいバイトを探し始めた。バイト代貯まったら、またあの娘を指名しよーっと。