10.「暁」
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Special thanks to
AKATUKI
……………
THE END
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「あれ、AKATUKIって何だっけ?」
連日徹夜でなんとか完成させた作品の最終チェックをしていると、スタッフロールのスペシャルサンクスに見慣れない名前を見つけた。
一度は事業撤退をしたものの、ウチの会社は社長の気まぐれで今でも時々家庭用ゲームの制作をすることがある。
今時家庭用ゲームなんてスマホアプリの影に隠れて大した売上など見込めないのに。
社長に言わせると、「売上なんてどうでもいい。売れなくても作りたいものを形にする仕事を忘れてはいけない。クリエイターたるものアーティストであれ。」…とのことらしい。
確かに、俺達の会社は元々ゲームが好きで集まった同人サークルがそのまま法人化した社員数9人の小さなベンチャー企業だ。
不況の波の飲まれながらも、なんとか「夢の作品を」と家庭用ゲームの制作をしていた。
しかしなかなか結果が出ずに業績を立て直すために手を出した別事業がそこそこヒットし、今では主力事業を変えてゲーム制作は事業撤退をしている。
まあ、いくら自分たちが作りたいものを作っても売れなきゃ意味ないよな。
主力事業を変更した社長の判断は、正しいと思う。
だけど、時々「じゃあ俺たちは何のために会社を起こしたんだ」と虚しい気持ちにもなる。
自分たちの作りたいものではなく、売れるものを作る。
誰にも喜ばれることがなくても、自分の本当に作りたいものを作る。
いったいどっちが正しいことなんだろうか?いったいどっちが虚しいことなんだろうか?
そんなモヤモヤした気持ちを抱えながら、最近の俺は仕事をしていた。
「よし、みんなもうすぐ仕事終わるし、明日は休みだ。今夜はまた飲みに行くぞ。」
ひとつの仕事が切りの良いところまで終わると、社長はこうしてみんなを誘って飲みに連れて行ってくれる。
元々サークルの仲間から始まったメンバーなので、みんなこういうノリは嫌いではない。
こうして時々飲みに行って、立場関係なく自分の考えや愚痴をぶつけることができるのも、俺がこの会社を続けていける理由なのかもしれない。
理想と現実のギャップにモヤモヤしながらでも、やっぱりこのメンバーと一緒にする仕事は楽しい。
「今夜って言っても、もうすぐ明け方でしょう?」
俺が笑いながら社長に言った。
「自分が寝るまでは何時だって今夜だ。はい、こっからみんな敬語禁止な。」
いつまでも学生ノリを忘れない同年代の社長に連れられて、俺たちはいつもの居酒屋に移動した。
店の前に立った時、ハッとした。
何度も来ていたはずなのに、なんで気付かなかったんだろ?
「なあ、今回の作品、最後にスペシャルサンクス加えたのお前だろ?」
ネクタイを緩めながら社長に尋ねる。社長は笑いながら答えた。
「ここがなけりゃ、俺たちたぶんケンカ別れかなんかして会社続けれてないだろ?」
俺たちはそろって店の看板を見上げた。
夜明け前から飲める居酒屋 暁。
「支えられてるんだよ。俺たちはいろんな所でいろんな人に。そうじゃなきゃ俺たちみたいな会社がこうやって続けられてないさ。」
社長は俺の方を見て続けた。
「俺達がそれに気付いてスペシャルサンクスの載せれる名前が山ほど増えたら、きっとまたやりたい仕事ができるようになるさ。」
ニカっと笑って、一足先に社長が暖簾をくぐって店の中に入っていく。
「お前が社長でよかったよ。」
俺は誰にも聞こえないくらいの声で小さくつぶやいた。
今はまだ、自分でやりたい仕事は選べない。
だけど、この社長について行けばいつかきっと…。
もうすぐ日が出てきそうな空を背に、俺も社長に続いて暁の暖簾をくぐった。