今回の報告ではザポリージャ原発にはあまり大きな動きはないが、ウクライナ北東部のハルキウ物理技術研究所が砲撃で外部電源を喪失し、未臨界状態にある中性子源施設を含め、非常用ディーゼル発電機に依存した状態にある。戦闘が激しさを増し、保全活動やウォークダウンが十分に行えないのは大きな懸念材料である。

 

 

IAEA(国際原子力機関)ラファエル・マリアノ・グロッシ事務局長は、3/28、ウクライナ南部のザポリージャ原子力発電所(ZNPP)の近くで軍事活動が行われ、いくつかのサイトで空襲警報が鳴り響き、北東部にある研究施設では砲撃で外部電源が停止するなど、紛争はウクライナにおける原子力安全・核セキュリティを危険にさらし続けていると述べた。

 

「2年以上にわたり、ウクライナにおける原子力安全・核セキュリティは常に危険にさらされている。我々は、ウクライナ国内に限らず、人々と環境に害を及ぼす可能性のある原子力事故のリスクを最小限に抑えるためにできる限りのことを行う決意を維持している」とグロッシ事務局長は述べた。

 

「これまでのところ、我々はなんとか状況を安定させることに成功しているが、先週再び見られたように、ウクライナにおける原子力安全・核セキュリティは依然として極めて脆弱である。いかなる時にも警戒を緩めるわけにはいかない」と事務局長は語った。

 

欧州最大の原子力発電所(NPP)であるZNPPでは、サイト駐在のIAEA専門家は、プラントからさまざまな距離で、過去1週間毎日爆発音を聞き続けている。専門家らによると、おそらく砲撃によるものと思われる音がサイト近くから聞こえたことが数回あったという。 3/22の夜と3/27も近くで小火器の発砲音が聞こえた。さらに、3/27、サイトで空襲警報が鳴ったため、IAEAチームが予定していたZNPPの乾式使用済燃料施設への立ち入りは同日遅くまで延期された。

 

このような課題にもかかわらず、IAEAチームは過去1週間にわたってサイトにわたるウォークダウンを実施し、5号機原子炉建屋に立ち入り、使用済燃料プールの水位、使用済燃料冷却ポンプの動作、2基の蒸気発生器と安全システム室の視察等を行った。液体の漏れやホウ酸の痕跡は観察されなかった。チームはまた、4号機のタービン建屋で作動中のポンプやその他の機器を視察し、同号機での非常用ディーゼル発電機の試験を視察。また、4、5号機の安全系電気室に立ち入った。

 

過去1週間にわたって実施されたウォークダウンを通じて、IAEA チームは原子力安全への懸念事項を目撃することはなかった。しかし、ZNPP側は依然として、タービン建屋の一部、ZNPP冷却水ポンドの隔離ゲート、近隣のザポリージャ火力発電所の330kV屋外開閉所を含む原子力安全・核セキュリティ上重要なすべてのエリアへのIAEA専門家への適時かつ適切なアクセスを提供していない。IAEAは、ZNPPのタービン建屋の1つに軍隊と車両の存在に関するソーシャルメディアの報道と画像を認識している。ZNPPのタービン建屋にそのような車両が存在することは、事務局長による以前のUpdateで報告されています。

 

1号機の安全システムの一部の保守活動は、ZNPPが先週再び延期を決定した後、まだ再開されていない。ただし、ZNPPの他の場所での計画保守作業は進行中である。

 

IAEA専門家らは、ZNPP側から、5号機のスプリンクラー・ポンドの1つを清掃するために排水を開始しており、これには約3週間かかると予想されること、また、その後6号機のスプリンクラー・ポンドも清掃される予定であるとの説明を受けた。これら2ユニットはZNPPで低温停止状態にある5基に含まれるもので、原子炉4号機は加熱用の蒸気を発生させるために高温停止状態にある。

 

ウクライナ原子力規制当局によると、3/22、北東部の都市ハルキウで、戦争開始前は医療および産業用途向けのラジオアイソトープの製造に使用されていた研究開発施設が砲撃により外部電源を喪失した。この施設は現在、非常用ディーゼル発電機に依存している。さらに、IAEAは、全サイトでの放射線レベルは正常のままであるとの報告を受けた。

 

ハルキウ物理技術研究所(KIPT)にある未臨界中性子源施設は、紛争開始時には深い未臨界状態に移行しており、その放射性物質インベントリは少ない。 2022年11月、IAEAの保障措置・核セキュリティ専門家ミッションは、施設が砲撃により大きな損傷を受けていたことを発見したが、放射性物質の放出や申告された核物質の転用の兆候はなかった。

 

「武力紛争の開始以来閉鎖されているこの施設の性質上、現時点では一般公衆の安全に影響を与える可能性のある状況は想定していない。しかし、明らかに、原子力施設を外部電源なしで放置することは正常でなく、この戦争による原子力安全へのリスクを改めて証明している。引き続き施設の状況を監視していく」とグロッシ事務局長は語った。

 

フメリニツキー、リウネ、南ウクライナ原子力発電所とチョルノービリ・サイトのIAEA専門家からは、過去1週間に何度も空襲警報が発せられたにもかかわらず、原子力安全・核セキュリティは維持され続けているとの報告があった。フメリニツキー原子力発電所2号機のタービン建屋での保守作業は順調に進んでおり、リウネ原子力発電所4号機は計画停止中である。チョルノービリ・サイトのIAEA専門家はこの週ローテーションで交代した。

 

IAEAは、ウクライナにおける原子力安全・核セキュリティを維持するために必要な設備の提供を継続した。この週、リウネ原子力発電所は、英国からの資金で調達されたサイト向け非破壊検査用可搬式X線装置を受領した。紛争開始以来、ウクライナへの装備品の納入は42回目で、こうした援助の総額は現在900万ユーロ以上となっている。

 

IAEA職員は2022年からザポリージャに勤務(画像:IAEA)

 

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