IAEA事務局長によるウクライナ原子力最新状況―Update 217 ～750kV主電源一時喪失

ザポリージャ原発の生命線、ただ1系統残っている主要外部電源750kV電力系の接続が、約5時間喪失した。つい最近復旧したばかりのバックアップ330kV電力系1系統がその間の電力供給をつなぐ、まさに綱渡り状態である。

Update 217 – IAEA Director General Statement on Situation in Ukraine | IAEA

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IAEA(国際原子力機関）のラファエル・マリアノ・グロッシ事務局長は、ウクライナのザポリージャ原子力発電所（ZNPP）は、ウクライナ国内での広範な軍事行動が報じられる中、3/22のほぼ5時間にわたり、最後に残っていた主電力系統との接続を失い、紛争中の原子力安全・核セキュリティに常在する危険性を改めて浮き彫りにしたと述べた。

サイト駐在のIAEA専門家によると、ZNPPは現地時間午前6時10分頃に750kV電力系からの受電が停止した。接続喪失の原因はすぐには明らかにならなかったが、プラント側には、ドニプロ川の対岸、サイトから約95㎞離れた場所で電力系に短絡が発生したとの連絡があった。

750kV電力系に物理的な損傷は確認されなかったため、午前11時2分に再接続された。 ZNPPは過去2年間、サイトからさまざまな距離の場所で発生した軍事関連事象により繰り返し電源を喪失してきた。

750 kV電力系が利用できなかった間、ZNPPは唯一残っていたバックアップ330kV電力系から原子炉冷却やその他の重要な機能に必要な外部電力を供給し続けたが、この330 kV電力系自体が3週間以上続いた停電の後、3月中旬に復旧したばかりだった。外部電源が完全に失われた場合でも、20基の非常用ディーゼル発電機（EDG）はすべて待機モードで利用可能ではある。戦前、この欧州最大の原子力発電所 (NPP) には10系統の所外電源系統 (4系統の750 kV電力系と6系統の330 kV電力系)にアクセスできていた。

南ウクライナ原子力発電所(SUNPP)のIAEA専門家からも、同原発も750kV電力系1系統と330kV電力系1系統への接続を一時的に失ったと報告があった。750kV電力系が再接続されるまで出力は低下したものの、引き続き他の電力系にアクセスして運転を継続した。

「我々は、この壊滅的な戦争が続く限り、ザポリージャ原子力発電所、そしてウクライナの他の原子力発電所が日々直面し続ける非常に現実的な危険を再認識させられる。また繰り返すが、ザポリージャ原子力発電所の外部電源状況は首の皮一枚でつながっている」とグロッシ事務局長は語った。

3/22のウクライナでの停電と軍事行動の報告は、ZNPPがこの週初めに「プラント周辺の全体的な状況」を理由に原子炉の安全システムの一部の計画された保全活動を延期した後に発表されたものだが、詳細は明らかにされていない。また、この週、ZNPPのIAEA専門家から、ZNPP外周壁外のエリアでの大砲や機関銃の発砲と思われるものを含め、サイトからさまざまな距離の場所で日々発生する爆発の数が増加していると報告があった。

グロッシ事務局長は、ZNPPがサイトの保全活動の一部を延期するのはここ数週間で2度目であり、同サイトの原子力安全・核セキュリティに対する懸念が高まっていると述べた。

1度目は、2月、唯一残っていたバックアップ電力系への接続を失って、1号炉の安全系設備の定期保守作業が延期された時である。330 kV電力系が前週復旧したのを受け、プラント側はこの作業を再開するつもりで必要な準備テストまで行っていたが、3/20、再び延期することを決定した。

1号機の安全系1トレンが計画保守作業に先立って隔離しての試験中であったが、この決定を受け再び復帰された。ZNPPの原子炉にはそれぞれ、安全系設備を構成する3系統の独立した冗長システム (安全系トレンと呼ばれる) がある。しかし、1号機の電源変圧器の保守作業はすでに開始されており電気的に絶縁されたままである。ただし、同号機は引き続き所外電力を受電することはできる。

「欧州最大の原子力発電所が被災するか、外部電源が喪失するという継続的な危険に世界の注目が集まっているのは当然だ。しかし、原子力事故のリスクを防ぐために、保守、要員配置、スペアパーツの入手可能性など、引き続き注意深く監視しなければならない課題が他にもいくつかある。それらはすべて、プラントの原子力安全・核セキュリティに対する我々の深い懸念の一部となっている」とグロッシ事務局長は述べた。

この週の延期決定の前に、IAEA専門家は、2024年中のZNPPの1、2、6号機の保守期間は長くとるよう計画しているとの説明を受けていた。

保全活動がさらに延期されると、ZNPP の2024年の予防保全計画の実施に悪影響を及ぼす可能性がある。グロッシ事務局長は2月、IAEA理事会への報告の中で、「保守活動に関する状況が継続した場合、時間の経過とともに安全系設備やコンポーネントの劣化することで、原子力安全に影響を及ぼすことが予想される」と述べていた。

前週、IAEAチームは、6つの中央制御室、6号機原子炉建屋、安全システム室、さらに同号機と1号機の非常用給水ポンプとタンクのウォークダウンを実施し、複数の非常用ディーゼル発電機での定期試験を視察した。チームは5号機のタービン建屋にも立ち入ったが、専門家は建屋のすべての階層に立ち入ることができたが、建屋の西側部分の視察は制限されていた。 IAEA専門家は、これらのウォークダウン中に原子力安全上の問題を目撃することはなかった。

IAEA専門家は、4基のディーゼル蒸気発生器が、約1,200㎥の液体廃棄物とホウ酸水の処理を行った後に停止されたとの説明を受けた。

ウクライナの他の場所、フメリニツキー及びリウネ原子力発電所並びにチョルノービリ・サイト駐在のIAEA専門家からは、この週を通じて何度も空襲警報が発せられたにもかかわらず、原子力安全・核セキュリティは維持され続けているとの報告があった。フメリニツキー原子力発電所の2号機のタービン建屋の保全活動は進行中であり、リウネ原子力発電所4号機は計画停止中である。

この週、IAEAは、ウクライナにおける原子力安全・核セキュリティを維持するための包括的な支援プログラムの一環として、ウクライナへの第41次機材納入を実施した。ウクライナ国家緊急事態省と同省国民保護局レスキュー隊特別航空分遣隊は、放射線検出器および監視機器をポータブル電源、データ収集システムなどの関連付属品と共に受領した。この機器は米国DOE(エネルギー省)国家核安全保障局（NNSA）から寄贈された。

(画像：エネルゴアトム)

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