夏目漱石の「こころ」に出てくる先生は、下宿先の娘と長らく親しくしていたが、恋愛関係に発展することはなかった。しかし、友人が、その娘に恋をしているのを聞いた途端、奪われたくないという気持ちになった。衝動的に、娘さんを下さいと、娘の親に申し出て許可をもらう。そのことを、友人には内緒にしていた。先生は、自分がそんな人間だと知って抑うつ的な雰囲気を身にまとうようになり、最終的に自殺する。

どんなことをしても、どんな汚名を背負っても、お前と一緒の人生にしたかった。そういう信念でもって、奥さんを大事にしないのだなあと、不思議に思う。これでは、他の子から菓子を取り上げて泣かせておいて、自分も泣き出す子供と同じではないかと思う。

物知りな先生も、自分の心が分からずに、自分の心に振り回される。友人を裏切った自分は生きてゆけないと、壮大な言い訳を綴った遺書を残し、ウッカリ妻を裏切って自殺するという、舐めた結末に至る。

名作と言われているらしいが、胸糞な突っ込みどころが多過ぎるように思える。