コリン・ウィルソンという作家がいます。彼は、人間の精神エネルギーは、汲み上げ式の井戸のような構造をしていると述べています。エネルギーを汲み出すのには、呼び水が必要です。呼び水となるのは、一定の集中した努力です。つまり、やる気がないから何もしないのではなくて、何もしないからやる気が出ないのだ、という話です。行動がやる気を誘発するというのは、脳研究で有名な池谷裕二博士も同じ事を著作で書いています。

まず、やり始めるか始めないかで差が出るわけですが、この効果には、さらに、確率の錯覚という認知バイアスの上乗せがきます。

こんな経験はないですか?  明日は日本史の中間テストだけど、どうせ60点くらいかな、今さら足掻いて、もう三点くらい増やすための努力は合理的じゃない、勉強止めて、ゲームして寝よ。これは合理的ではありません。何もしなければ、得点力上昇はゼロです。今後を考えても、知識を増やして損はない。
また、こんな経験はないですか? 今回の数学のテストは、95点を越えるかもしれない、どうせなら100点とりたい。よし、やってやる。と数学だけに時間をかけ過ぎて、他の教科が疎かになった。これも、合理的ではありません。学校の勉強は、数教科の合計点を競うスコアアタックのゲームですから、パワー配分がマズイのはよろしくない。

まとめると、こういうことになります。勉強を始めるか始めないか、というところにまず最初の壁がある。そして、勉強を初めても、百点や合格というゴールが遠いうちは、「この努力は実るのか?」という疑問や徒労感に苛まれがち。しかし、ゴールが近くなるほど、百パーセントに近くなる程、あと一歩を進むべきという気持ちが強くなる。60点からの3点と、97点からの3点は、同じ3点でも心理的な重みが違う。そして、ゴールが見えてくれば、無双モードに突入。よっしゃ、いったらー!

資格試験や受験勉強を始めたばかりの方。今の苦しみがずっと続くという心の見積もりは間違っています。それは錯覚です。前に進む程に意志が加速する。無理だ、無駄だ、という自分は追い抜くことができる。それが、現代の科学的心理学が出した結論です。