クラウド化が進むERP!震災後のERP検討のキーワードは? | "ナレッツェリア"

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<東日本大震災で見えた事実>
震災翌日の土曜日に早々にアメリカに帰国した某大手ERPベンダーの社長もいた。
また、海外から赴任している外人スタッフを関西に移動させる、
国外に移動させる対応をした外資ITベンダーもあった。
危機に際し、陣頭指揮をとるべきトップが日本からあっという間にいなくなってしまうのは、
日本におけるユーザー企業CIOの目には、どのように写ったのか?

こういう状況下において我が国企業のCIOは震災から学びつつ、
IT中期展望を描きだし、事業のグローバル化と他社が真似できない
ビジネス価値を高めるプラン創出が求められている。

具体的には、震災から学ぶべき教訓として以下の事例をあげておくことができる。
<事例1>
大塚商会は、震災の影響によりコールセンターシステムに障害が発生したため、
一時、コールセンターでの対応が難しくなった。
電話がつながりにくい状態が続き、エンジニアとの連絡が取りにくくなった。

<事例2>
内田洋行は、製造・サービス拠点、物流センターなどに被害があり、
復旧に時間を要した。商品の配送や保守業務などの顧客対応の一部が遅延、
または行えない実態が発生。
コールセンターの「お客様相談センター」など電話は、震災後の回線逼迫でつながらなかった。

つまり「ネットワーク被害」と「物理的な破損」にみまわれたわけだ
・ネットワーク被害:つまり電話回線の逼迫や停電によりインターネットサイトの多くがダウンしたり、アクセス集中により繋がりにくい状態になったりしたのだ。東京電力管内のサーバは使いものにならなかったのは記憶に新しい。

・物理的な破損:工場・サービス拠点、物流センターが破損し出荷停止においこまれた。
意外な事実は千葉県に関東の物流センターを配置していた企業の多くが物理的な被害にあい関西地区から応援出荷をあおぐことに追い込まれた。

結果的に企業のCIOは「顧客マスタ」などの出荷や請求に必須データを分散保有しなければいけないことを実感したし、基幹サーバーを東京本社近辺に集中させるリスクをも理解した。

<「データ所有」「ハード利用」「グローバル分散化」>
ここで学ぶべき教訓は、「取引先マスタ」や「売掛」「買掛」データなどの
自社管理を強化しなければいけないが、データの入れ物≒サーバーは「グローバル分散化」が
必要だということ。
これが「クラウド」とか「ホスティング」と呼ばれるサービスにつながる。
決算に必要な財務会計データ、月次損益管理に必要な管理会計データ、
今月の生産計画データや工場や協力工場への製造指示データ、実績管理といった
生きたデータは自社で管理しつつも、運用会社にサーバーを預けインターネットを通じて
システムを活用する形態をとり、非常用発電機を備えるとともに十分な燃料を備蓄することで
停電に関する支障は発生させないように契約した情報システム部門は多い。


<現状を踏まえつつIT中期展望をもつ>
しかしながら、いつまでも震災から学ぶことに専念しているわけにはいかない。
前向きに中期展望を描きだし、事業のグローバル化と他社が真似できないビジネス価値を高めるプランが求められている。
ERPに代表される「基幹システム」もその将来像が問われている。
自社の基幹システムが、いまどの段階にあり、どの段階を目指して進むべきかを確認できるモデルが必要といえる。
そういった意味でリチャード・L・ノーラン博士のステージ理論(情報システムの発展段階説)が
便利であり、ノーランのステージ理論をベースに自社のIT中期展望を検討するとマイルストンが見えてくる。

6段階の成熟度とガイドラインを示すと以下になる。
①初期:コスト削減や効率化目的でシステム導入を開始する段階
②拡大:スピードを優先し個々バラバラにシステムを拡大する段階
③統制:投資対効果、標準化を重視してコントロールを強化する段階
④統合:プラットフォームを均質化しシステムの集中化を追求する段階
⑤最適化:固有性と共通性を両立させながらシステムを構造化する段階
⑥最適配置:システムを最適にデプロイメントして多様性を吸収する段階

多くの中堅企業が②の拡大から③の統制段階にあると思われる。
ただし、乱高下する米株式相場や急激にすすむ円高は我が国企業をグローバル化に
再度チャレンジせざるをえない状況に追い込む。

そんな時代背景の中で③統制とは「システム標準化とITガバナンス」と言い換えてもよいが、
ERPの果たす役割は大きいし、④の統合段階へ進むにあたり、完成度の高いERPパッケージの
アーキテクチャや導入事例を参考にすれば、IT中期展望をきりひらく可能性は高い。
グローバルシステムに限らず、多様なビジネスのシナジーを最大化していくために共通化や標準化を進めることと、個別事業の差別化や迅速性を確保することの両立は、簡単に実現できるものではない。
共通化や標準化を推し進めればITガバナンスが強まり、ノウハウが共有され投資効率も高まる一方で、個別の事業ニーズへの迅速な対応や、差別化や競争優位性を妨げることになりうるというジレンマが常に存在する。

ERPで共有化あるいは共通化すべき部分と、地域または事業ドメインごとに差異化の要因となる独自性を追求すべき部分を特定していく必要があり、そのなかで自社の全体最適のイメージを具体的な構想に落とし込んでいく必要がある。

例えば、半導体や光学機器では典型だが、前工程がプロセス型で後工程が組立て型といった複数の製造形態をもち、多品種で複雑な仕様をもつビジネスは、各種のオペレーション実行(生産、品質、倉庫、メンテナンス等)を統合するデータモデルや個別のビジネスプロセスに対応できるシステム・アーキテクチャを要求する。
こんな企業では各拠点で活用されるビジネスプロセスの80%にあたる“コア”の共通ビジネスプロセスをERPが対応しつつ残る20%を個別対応するオペレーションデータ管理システムの組み合わせが求められている。