東京に雪が降って3日が経った。

私は横浜市の生れ育ちなので、雪には慣れていない。
フォトジェニックな場所に住んでいたわけでも遊び甲斐のある地形だったわけでもないので、必然的にというか、さしたる思い出もない。
強いて言うなら、センター試験の日が大雪で、会場が全く知らない街の高台にあったせいもあって辿り着くのに難儀した、とかそのくらいのものだ。


大学から25歳までやっていた劇団の主宰が、沖縄の出身だった。
オキナワニフルユキというタイトルの戯曲を書いてしまったこともあるくらい、彼は雪に対するあこがれが強かった。
確か大学2年の時だったと思うのだけど、その年、東京では本当に珍しいレベルの大雪が降った。3日前の雪よりすごかったと思う。
当時の我々は絵に描いたようなアホ大学生だったので、電車がどうとか忘れて部室に集まり自然発生的に雪遊びになった。
部室の入っている学生会館には裏庭のような場所があって、そこが殆ど学生の通らないところだったので、真新しい、ぴかぴかの、誰も触っていない雪が、それはもう一面に広がっていたのだ。


当然のように雪合戦が始まり、
それはやがて雪玉を投げる遊びではなく誰かの襟元に雪を突っ込むというアグレッシブな肉弾戦に変わり、
それに疲れた脱落者たちが外れたエリアでかまくらを作り、
そのかまくらを肉弾戦の参加者たちがダイブで押し潰しにかかり、
何してくれてんねんもうすぐ完成だったじゃろうが、とかまくら作成班が雪合戦に再合流し、
最終的に全員雪まみれのべちゃべちゃになって部室の古いラジエーターの前で寒い寒いマジで死ぬとのたまい、
忘れたけど多分絶対呑んで終わったと思う。


沖縄に帰ったそいつに東京の雪の写真を送った。


「雪だるま!
    雪だるま!!」


と返ってきたので、こちとら撮影真っ最中じゃ風邪ひくわボケ、と送ったら


「かーまくら!!
    かーまくら!!」


と返ってきた。
「貴重な雪様やぞボケ!雪優先!!!」
だそうだ。


もうそいつは地元に帰ってしまったので、叶わないんだけど、
劇団時代に「お互い40すぎになっても明大前の路上で呑む不良中年になろうぜ」なんて話、してたな、と思い出して、
大きい夢が叶わないのはまあわかるけど、小さくてもあんまり関係ないんだな、なんて思った。
あ、当時も色んな人に誤解されていたけれど、主宰と私のあいだには恋も色気もございませんでした。これ全部、本当に、というか、本当の、友人としての親愛だけでした。だから私には尊かった。


うちのベランダの外には少し大きな木があって、
その根元にはまだ随分硬い雪が、押し固めるような形でたくさん、残されていた。
この雪はいつ解けるのだろう?



雪が降ると、sherbetsを思い出す。
「水」という曲。



思い出は雪だから
透き通った水へ かえっていくだけ

ああ いつの日にか
みんなどこかへ消えてしまう気がする
ああ 伝えなくちゃ
素直なその気持ちを今すぐ



この歌詞は、きっと、これから先雪が降るたびに
思い出し続けるんだろうなと思った。
この歌知ったの16歳とかだもん。32歳でダブルスコアなのに未だに、未だになんだ。




妙にセンチメンタルなのも、
懐古的なのも、
ぜんぶ雪のせいだ。




あ、
結局、雪だるまもかまくらも作らず、スルーしました。