すべては人の問題
 経営コンサルタント業を国際的に続けていると様々な依頼や事件に巻き込まれる。結果的にはそのほとんどは人生相談と化する。
 ボクが経営コンサルティングの世界に飛び込んだのも、きっとその人生相談が好きだからと思う。
母がまだ生きていたときに、保険の外交をやっていた。小学生だったボクは母に連れられてよく、お客さん候補に会った。勿論、私はついでだ。なんで連れられて行ったのかは、定かではないが、おそらくボクに早くして人生勉強させるためではなかったか。
でも、相手にすれば、「なんで小学生の息子がいっしょなの?」と、不思議そうな顔をする。だから、ボクはできるだけ存在感がないようにおとなしくしていた。
保険を売るためにお会いしているのに、相手の深刻な状況を聞くと、保険どころではなくなる。
通常、相手の人は、10分もすると泣き始める。それも喫茶店で会うことが多かったので、皆がビックリして我々を見る。
その涙を見て、いかに大変な状況であるか、小学生のボクにも理解できた。
「自殺したい!」と何度も繰り返して言う人さえいる。
 そんなとき、母は親身になって、人生相談を坦々と始める。
それで何人の人の命を救ったことだろう。
死に掛かった若者を、他の異性に紹介することで、かなりの数のカップルができあがった。その多くは結局結婚した。修羅場をいっしょに乗り切ったことで、深い深い情が湧いたのではないだろうか。
だから、彼らは、ボクの母のことを、「お母さん!」と遠慮なしで呼ぶ。それも往々にして泣きながら。まあ、肝っ玉母さんって感じかなあ。母を見るととても安心するらしい。
そんな母ももう亡くなったのだが、小学生のときのこの体験が、ボクの生き方の根幹をなしてしまった。
 苦しんでいる人、悩んでいる人の相談に乗り、同苦し励ますこと。このボクの母のライフワークが、ボクの職業となり、またライフワークにもなろうとしている。

 四半世紀近く経営やビジネスのコンサルティングをやってきてつくづく思う。人のコンサルティングも、会社へのコンサルティングも大して変わりはない。むしろまったく同じであることが多い。
 会社も組織も結局は人の問題だからだ。それでは会社や組織の問題として相談を受けても、最終的には人の問題となる。
ボクはそれをよく、人間関係マネジメントの問題とし、解決のための力を「人間関係マネジメント力」と呼んでいる。
これからお話しすることは、今会社や組織で行き詰っている根本的な問題だ。それもユニバーサルな。だから、日本のみならず、海外でも起こっている。

大物投資家からの深夜の電話
 静まり返った深夜のボクの事務所で、いきなり電話が鳴った。
「ネイト?(私のニックネーム)」
「そうですが。誰ですか、こんなに遅く?」
「ボブだ!」
「ボブ? どちらのボブ?」
「ボブ・アンダーソンだ」
「あ、ボブ・アンダーソン!」
 ボブ・アンダーソンとは、アメリカ有数の投資グループ「アンダーソン&カンパニー」を一代で創り上げた、大富豪だ。ボクがまだ前の会社に勤めていたとき、大事なクライアントだった。ただ、独立後はご無沙汰していた。
「どうして、ボクがここにいるのわかったのですか?」
「秘書にあっちこっち電話してもらって、ようやくネイトがそこにいるのがわかったんだよ。本当に探した」
「なんでしょう、こんな深夜に?」
「大変なんだ。会社がゴタゴタで!」
「ゴタゴタってどうしたんですか?」
「ワシももう歳だから、最近社長をヘッドハントしてきたら、そいつがワシを裏切って、新しい会社を創ってうちの優秀な人材を連れて行ったんだ。けしからんヤツだ!」
「え! それでどうしてボクに?」
「どうもバックに日本企業がいて、資金を出しているらしいから、本件で顧問として入ってくれないか?」
「ええ、それはいいですけど、ボクごときで役に立ちますか?」
「勿論さ! だから電話しているんだよ」
「明朝6時に我が家に来てくれ。顧問弁護士や役員が一同に集まるから」
「え! ボクは明日までに仕上げなければならない報告書があるんですけど……」
「頼む。遅れてもいいから来てくれ」
「わかりました。それでは徹夜で報告書作りをやります。終わり次第、ご自宅に向かいます」
 ボブの自宅は、ボクが住んでいたテキサス州ダラスでも有名な豪邸で、何しろ自宅の中にゴルフ場や大きな池がある。パーティーだということで何度か、彼の自宅に招待を受けていったが、そこには、ほとんどの共和党の歴代大統領や副大統領達がいた。定期的な寄付などをして共和党には絶対的な経済的影響力を持っていたから無理もない。
 業界ではボブは「投資の神様」との異名を持ち、誰もが恐れていたのだ。
 その彼が、若いがハーバード・ビジネス・スクール出身の優秀で、長年信頼してきた友人、クレッグ・トンプソンを社長に据えた。ボクも何度も企業買収の件で会ったことがある。なかなかのやり手だが、誠実そうに見えた。
 まさか、クレッグがボブを裏切るなんて……

乗っ取り屋対策
 なんとか、徹夜で報告書を終わらせ、事務所から直接ボブの自宅に行った。着いたら既に7時は回っていた。話し通り、役員らしき人達と以前会ったことのある顧問弁護士3人が、喧々諤々と議論し合っていた。
「おう、ネイトようやく着いたか。やはり、クレッグの新しい会社に資金提供するのは、日本の投資グループらしい。それもあまりいい噂のない」
「名前とはわかりますか?」
「ヤマテ・グループだ」
「え! あの乗っ取り屋で有名な?」
「そうだ! とんでもないところとクレッグも組んだな」
「ヤマテ・グループは、今、東証一部上場企業の乗っ取りを次々手掛けようとしていて、日本でもひんしゅくをかっている。ただ、インサイダー取引の疑惑もあるので、そのうち自滅するかも知れません。村田等・代表とは、先日の北アメリカ航空買収合戦のときに競合相手としてお会いしています。でも彼らはやり方を選ばないので、手強い相手になりますね」
「ヤマテ・グループとやり合うことになると、間違いなく泥試合になる。我々の買収を悉く邪魔してくる。特に、クレッグは我々のやり方を知り尽くしているからなあ……。ネイト、何かいい対応策はないか?」
「ボクはクレッグと彼が連れて行った元うちのスタッフを、我々側に呼び戻すことが一番得策だと思います」
「なぜだ?」
「だって、機密情報やノウハウを使われなくて済みます。彼らを好条件で呼び戻しましょう」
「なぜ、裏切っていったやつらを受け入れなければならないのだ?」
「裏切るにはそれなりに理由があると思います。恐れ入りますが、ボブ、あなたにも何か原因があったのでしょう。そうでなければ、集団で裏切ることはないでしょう」
「ネイト、君は失礼だね! もっと言い方あるだろう?」
「すみませんが、ボクの役目は、問題解決です。もし、ボク流のやり方を受け入れてもらえないのでしたら、問題を解決する自信はありませんから、他の人にコンサルティングを頼んで下さい。本気で問題解決しようとする人は、一々クライアントに胡麻なんかすれません。真剣勝負ですから」
「わかったよ。君は前も無礼だったね。でも、問題は早々に解決してくれた。それで今回も顧問をお願いしたんだ。だから、問題解決できるんだったら、多少の無礼は目をつぶろう」
「ありがとうございます。じゃあ、もう一度確認します。ボブ、あなたも彼らが裏切って去っていった原因を作っていることは、間違いありません。心当たりはありますか? もしあれば、それは何だと思いますか?」
「そうだな。段々彼らの言うことを聞かなくなったからかなあ……。提案を始めたら、すぐに話を端折って、邪魔したから、根に持たれたかも知れない」
「それだけですか?」
「……」
「何かプライドを傷つけるようなことを言ったりしたりしませんでしたか? あなたが、彼だったら言われたくないことやされたくないことで?」
「思い当たらないけど……」
「うーん、そうかなあ……。何かあるんじゃないかなあ? クレッグはめちゃくちゃプライドの高いやつって聞いていたからなあ。彼が、この業界で『投資の神様』と言われているあなたを敵に回すなんて、気でも違ったとしか言いようがないですね」
「そう言えば、彼の提案を悉く却下してきた。使うのは人の金だからって、リスクばかり高くて大して儲からない提案ばかりしてくるから」
「それでは、彼は実質社長とは言えなかったのでは?」
「そうかも知れない。ただ、彼に任せると一歩間違えたら、うちだって一挙におかしくなるよ。彼が出してくる案は、全部数千億円の大型プロジェクトばかりだからね」
「なるほど、彼は社長であるのに自分の意見がまったく通らなかったから、面白くなくなって辞めたんだ。面白くないどころか、社長としてのプライドを傷つけられたから、根に持ったようですね」
「ありえるな。しかし、この世界は、食うか食われるかの戦いで、過去どんなに成功してきても、今いい仕事をしなければ、アッと言う間に奈落の底だ。クレッグも甘いな」
「しかし、彼も今は敵。プライドと執念でアンダーソン&カンパニーを潰しに入りますよ。きっと、『オレみたいな優秀な人間をコケにしやがって』くらいのことは思っているでしょうね」
「おいおい、脅かすなよ。ネイト、君の仕事は、うちを守ることなんだから」
「わかっています。ただ、怨念を持った人と戦ってもしょうがありません。相手は損得勘定ではなく、死ぬ気になって戦いを挑んできているのですから」
「じゃあ、どうする?」
「ボクがあなただったらもう一度、こちら側に戻します」
「そんなことができるのか?」
「できます。クレッグのプライドや情に訴えます」
「一度裏切ったやつが、そんなんでまた戻ってくるか?」
「クレッグの部下を見方につけます。そのためにボブにお願いがあります」
「なんだ?」
「あなたこそ、プライドを捨ててください。あなたはもう自身のプライドを捨ててもいい立場にいます。誰もがあなたの凄さは認めているのですから。そんなあなたが、頭を下げれば、誰もがビックリするでしょう。感動すると思いますよ」
「ワシは今まで、誰にも頭を下げずにここまで実力でのし上がってきたんだぞ。何で今更クレッグみたいな卑怯者に頭を下げなければいけないんだ?」
「でもあなたは既に頭を下げている人がいます」
「嘘だろう? 誰だ、そいつは?」
「ボクです」
「君は例外だよ。そもそも顧問なんだから、頼まなければならないことはいっぱいある」
「だったら、クレッグにも頭を下げてください。それでこの問題は解決しますから」
「うーん……」
「彼と争って何の得になります? 喜ばすのは、周りのあなたの競争相手ですよ」
「他の競争相手とは戦いたくないなあ……」
「現実としてここぞとばかりに、このチャンスを利用してクレッグに加担して、あなたの名誉を傷つけ、ビジネスも潰そうとしますよ」
「そうかなあ」
「バックにハヤテ・グループがいるならなおさらです」
「そんなにハヤテ・グループというのは、酷いのか?」
「勿論です。とにかく、彼らは儲けるためなら手段を選ばないですから。ボクも彼らと戦ってきて何度も嫌な思いをしてきました。彼らは反則技ばかり使います。そんな相手と正々堂々と勝負してもバカを見るのはボブ、あなたですよ」
「ワシはここぞというビジネスの戦いでは負けたことがない。だから、自分から頭を下げるくらいなら、負けてもいいから戦いたい」
「時間とお金の無駄ですよ。ここはボクに任せて下さい。任せてくれないなら、ボクは顧問から降ります。負ける戦いはしたくありませんから!」
「わかった。君がそこまで言うなら、もう任せるよ」
「ありがとうございます。ボクは昔から頭が悪かったので、人間関係マネジメントにおいては、かなり勉強してきました。どうしたら、こじれた人間関係を回復させるかなど」
「それはいいが、具体的どうすればいいんだ?」
「単刀直入に言います。クレッグに頭を下げてもらえますか?」
「なんで裏切ったやつに私が頭を下げなければならないんだ? 逆だろう! ワシこそ私に謝るべきだ」
「彼と喧嘩するなら、それでいいと思います。しかし、そもそも彼が裏切る原因を作ったのはボブ、あなたの言動ですよ。彼が裏切ったのはよくありませんが、あなたの言動がそうさせたことも事実ですから、とにかく謝って下さい。それができなければ、事態の収拾はないでしょう。どんどん泥沼にはまっていくでしょう」
「……」
「悔しいでしょう。しかし、生意気な言い方で恐縮ですが、もっと大きな人間になって下さい。あなたは『投資の神様』なのですから」
「いいだろう。いつでも謝るよ。ワシも70歳を越したから、後そんなに長くないだろう。残りの人生を人間として極めたいからなあ……」
「じゃあ、これからの進め方はボクに任せて下さい」
「よかろう」

裏切り者との交渉
 事務所の戻ったボクは、その日の午前中にクレッグ・トンプソンに電話をした。
「クレッグ? JCIのネイト・ハマグチだ。元気か?」
「おっ、ネイトか。ご無沙汰。どうしたんだ急に?」
「実は、さっき久しぶりにボブ・アンダーソンに会ったんだ。そしたら、君が辞めたことを聞いてね。どうしているのかなあって思って……」
「えっ……。そうか、ボブとね。そう言えば、ネイトはボブのお気に入りの経営顧問だったよな。あっそうか! じゃあ、ボブに頼まれて電話してきたのか?」
「頼まれたわけじゃないが、ボブは君にお詫びしたいって言ってるんだ。だから、近々に会ってくれないか?」
「嘘だろう。ボブがオレに謝るはずがない。散々オレを無能呼ばわりして、最後は実質クビにしたようなものだからな。とにかく、ボブは、彼に意見するオレを気に入らなかったようだからな」
「確かにそうなのかも知れない。でも、今はとても反省しているんだ。ボブは君に会って頭を下げたいと言っているよう」
「オレは信じないね。万が一頭を下げたとしても、それは自分の名誉を守るための表面的なパフォーマンスに決まっている。とにかくボブはワンマンだからね。もう、彼の時代は終わっているのに、気がついていない。いつまでも昔の栄光に浸っている」
「本当にボブは君に詫びたいと言っているんだ」
「誰が信じるか、そんな嘘っぽい話!」
「じゃあ、会って確かめたらいいじゃないか? 会ったらわかるよ。それが本心かどうか」
「……」
「ボクが立会人兼証人になるから」
「嫌だね。今更会って謝られたって何になる? とき既に遅しだ。オレはボブに復習することを決めたんだから。彼が言い続けたように、本当にオレが無能かどうか、彼に証明してやるんだ。その時始めて彼がオレにひざまずいて、心から詫びなければならなくなるだろう。助けを求めてくるだろう」
「クレッグ、そんなことをして何になるんだ。真実を知ったら、皆君のことをなんて卑怯で心の狭い人間なんだろうとあきれるよ。それから、ただ君を金儲けに利用する人しか付き合わなくなるだろうね」
「何ってるんだ。お前にオレの気持ちがわかるか! どれだけボブに屈辱的な扱いをされたか。オレは彼に何度も改心することをお願いしたんだ。土下座までして。そしたら、彼はオレのことを薄笑いしながら言ったんだ。『だから金のために何でもするエリートはダメなんだ。保身のために平気で土下座までするからなあ』って。オレはあの言葉を一生忘れないよ! 真剣彼のために生きてきた人をコケにしたら、どんな罰を受けるか、思い知らせてやるよ」
「君の恨み辛みはわかった。確かに体験した君にしかわからないだろう。しかし、一度だけ、ボブに会ってくれないか? そしてその目で確かめてくれ。ボブも、もう70歳を越えた。元々健康でなかったから、持病のゼンソクも酷くなってきたから、本人が言うように、彼もそう長くはないだろう」
「同情を買おうったって無駄だよ。オレの意思は固いから。もうすべてが遅すぎる」
「同情を買うつもりはないよ。ただ、もう二度とボブと会うことはなくなるかも知れないんだ。特に、二人きりで。そのときに、言えばいいじゃないか。君のその恨み辛みを。そして、その怨念でボブを脅して去ればいいじゃないか?」
「……」
「オレがそれを見届けてあげるから」
「ん……」
「昔のボスだったボブに会うのがそんなに恐いのか?」
「とんでもないよ、怖いなんて。逆だ! 会ったらボブこそ、オレを恐ろしがるだろう」
「じゃあ、その証拠に会おうじゃないか!」
「わかった、ちょっとだけならいいよ。その代わり、会うための条件二つがある」
「条件?」
「そうだ。まず一つ目だが、会う場所はダラスではなく、オレが今いるニューヨークだ。そうだな、マンハッタンの中にあるリーガ・ロイヤル・ホテルがいいな。そして二つ目。会った瞬間、オレの前にひざまずいて深々と土下座させろ。そして言わせるんだ。『クレッグ・トンプソン様、私が間違っておりました。本当に申し訳ございません。あなた様から言われるどんな罰もお受けします』と」
「お前! どこまで昔のボスをコケにする気か!」
「当たり前だろう。オレがそういう扱いを受けてきたんだから。自業自得だよ」
「なんてヤツだ!」
「嫌ならいいよ。会わなければいいんだから」
「……」
「やっぱりボブは謝る気がなんだろう? すぐにパフォーマンスだってわかったよ。そもそも本人じゃなく、代理のお前が電話してくるくらいだから」
「ちょっと待て! わかった、ボブにそうさせるよ。『投資の神様』が、昔の部下に土下座したとなったら、前代未聞だろうけどね。じゃあ、いつがいい?」
「君達に合わせるよ。会うなら早い方がいい。今君達がビックリするような仕返しを準備しているから。手遅れになる前に、ボブはオレに平伏すべきだろう。これもオレの情けだ」
「わかった。会う日時については、早々に知らせるよ」

「投資の神様」が土下座した日
 ダラス・フォートワース国際空港を発ってニューヨークに向かう飛行機の中で、ボクは突然ボブ・アンダーソンに切り出した。
「クレッグに会ったら、まず土下座して下さい。『投資の神様』として業界の皆平伏するあたなにとって、それがどれだけ屈辱的なことであるかを承知の上でのお願いです」
「ネイト、わかってるよ。そのためにニューヨークに行くんだ。この十年、ワシの方からお願いして人に会ってもらったことがない。会いたいと思った人でも皆向こうから会いに来る。クリントン大統領ですら、ワシに会いに来たんだから。でも、今回は君に任せたから、君が言う通りにするよ。とにかく、ワシのプライドより問題を解決することが先決だ。法的に戦ったら、おそらく勝てるだろう。しかし、法的に勝ったからといって、名誉ぐらいは守れるかも知れないが、それ以外何も得るものはない。ワシが土下座さえすれば、事態はよくなるなら、いくらでも誰にでも頭を下げまくるよ」
「ありがとうございます。本当に腹をくくっているですね」
「まあな。泥沼の戦いを始めて社員や取引先や顧客に迷惑をかけたくないからね」
「わかりました。ボクは問題解決のために命懸けで頑張ります!」

 予定通り、ボブとマンハッタンのリーガ・ロイヤル・ホテルに到着した。既にクレッグ・トンプソンは、秘書と共にロビーで待っていた。怪訝そうに。
「クレッグ。お待たせ!」
「ネイト、大して待ってないよ」
「クレッグ、暫くぶりだなあ。元気そうで何よりだ」
「……」
 ボブの挨拶にクレッグは下を向いたまま、返答しようとしない。
「話が話しだから、個室を予約しておいたから。個室でもいいだろう?」
「どこでもいいよ、ネイト。ただ、オレもそんなに時間ないから、さっさと終わらそう」
「わかった」
 予約しておいた最上階のスイートルームに行くまでのエレベータの中で、我々は何も話さなかった。特に、クレッグは、ボブと目を合わそうとしない。
 長い長い沈黙が続いた後、ようやく、スイートルームに到着。部屋に入るなり、開口一番にボクは言った。
「クレッグ、一つ頼みがある」
「なんだ?」
「悪いけど、3人だけで話したいので、秘書の方には遠慮してもらえないかなあ?」
「う……ん」
「今日はボクはどちらにもつかない。中立の立場で発言する。だから、当事者の君とボブ。そして、仲裁人であり証人である私だけでお願いしたい」
「わかった。じゃあ、今秘書を帰らせる」
「ありがとう。助かるよ」
 ムっとした顔をしている秘書を、クレッグは強引に部屋の外に引っ張り出した。出るなり二人が廊下で怒鳴り合いを始めた。
明らかに秘書はクレッグと対等の立場にあるのがわかった。ハヤテ・グループから送られてきたスパイに違いない。突然、口論が止まった。話し合いがついたらしい。
 クレッグが部屋に戻るや否や、今度はボブがいきなり膝を折り、床に頭をつけた。
「クレッグ、すまん。君がうちにいたとき、ワシは君に対して随分失礼なことをしていたようだ。本当に申し訳ない。バカな上司だったと思って許してくれ!」
「今更そんなことを言われても、もう遅いよ。オレがどれだけ悩み苦しんだか、あんたにはわからないだろう!」
「……」
「今だから話すが、当時オレはノイローゼになって、自殺未遂を繰り返していたんだ。それを見ていた家内まで病気になって、彼女は今精神病院にいる。それでショックを受けた一人息子は登校拒否になり、遂には家出してしまった。どこに行ったのか皆無だ」
「そうだったんだ。知らなかった……。ワシは大変なことを君にしていたんだな」
「オレは、それで決意したんだ。あなたに復習することを」
「そうか、わかった。もう好きなようにしてくれ。悪いのはワシだから」
「ボブ、ちょっと待って下さい。そんな投げやりな発言は」
「ネイト、もういいんだ。ワシは今決めたよ」
「何を、ですか?」
「事業から完全に手を引く。長くトップをやり過ぎたようだ。事業の成功がすべての成功だと勘違いしていた。今はっきりわかった。いや目が覚めたと言った方がいい」
「ボブ、気がつくのが遅すぎたようだな。もうすべては終わった」
「クレッグ、この通りだ。本当に申し訳なかった」
 ボブは土下座したまま床に頭を摩り付けた。
皆が奉る「投資の神様」のその姿を見るのは、痛々しかった。ボクがコンサルタントとして独立した際、夢でもあり目標でもあったボブ・アンダーソン。そこまでさせるクレッグに無性に腹が立った。
「クレッグ、いい加減にしろよ! お前はどこまでしたら気が済むんだ? 確かに不幸な状況になった原因の一部は、ボブにも責任があるかも知れない。しかし、すべてではないだろう! お前にも少しは責任があったはずだ。人にすべての責任転嫁をしているうちは、今後も敵ばかり作り、誰もお前のことを信用しないぞ」
「無責任なアドバイスで客を食い物にしている、インチキ・コンサルタントのお前にそんな偉そうなことが言えるのか!」
「ああ、何とでも言うがいいさ。そのまま受け止めるから。今度はボクのことに話を切り替えて逃げるつもりか? 今はお前とボブとの話をしているんだ。それが済んでからいくらでも話し合おうじゃないか」
「ネイト、お前も変わったなあ! 昔はオレを立ててくれていたのに」
「そりゃそうさ、昔のお前は正しいことをしていたからさ」
「じゃあ、今は正しくないって言うのか?」
「当たり前だ。たとえビジネスであっても、人を裏切ったり、嫌がらせをしたり、困らせることが正しいことか?」
「オレはボブのそうされてきたんだ。目には目を、歯に歯を、だ。ビジネスの世界は食うか食われるかで、そんな奇麗事通用するわけがない。」
「通用するね。ボクが証明して見せる」
「勝手にやれよ! 少なくともオレには通用しないから」
「見ていろよ。ビジネスも人間社会の一活動だ。そこには宇宙法則の影響を受けている。つまり、『原因結果の法則』だ。人を困らせたり、苦しめたら、将来必ず同じように困り、苦しむことになるから」
「オレはもう十分困り苦しんできたよ」
「そんなレベルじゃない。今ボブにやろうとしていることから考えると、命すら落とすかも知れない」
「今度は脅しか?」
「そうじゃない、お前のために言っているんだ。そんなにボブを苛めてどうなるんだ? 亡くなった奥さんが戻ってくるのか? 家出した息子さんが見つかるのか? もうこれ以上バカなことを続けるのは止めろ! お前らしくない」
 奥さんと息子の話をした瞬間、立って怒鳴り続けていたクレッグは、突然ソファーに崩れた。目には大きな涙を浮かべている。声を詰まらせながら
「黙れ! 経験したことのないお前らに何がわかる!」
「ボブに対する復讐に時間とエネルギーを使うより、もっとお前の将来につながることをやった方がいい。お前が『投資の神様』であるボブに復讐できたとしても、ボクを含めボブの親衛隊が黙っていないぞ。中には過激なヤツもいる。彼らはとことんお前を潰しにかかるだろう。二度と立ち上がれないくらい」
「ネイト、お前はオレを脅しに来たのか? それとも、仲裁に来たのか?」
「脅しでもなんでもない。ただ、容易に予想されることを言ってるだけだ。ボクには、彼らを抑えるだけの力はないからね。そんなことより、ボクの今日の役割は、仲裁であり和解だから、その話をしよう。クレッグ、そのためには、ボブに何をしてもらいたい?」
「既にボブの方から話が出たが、事業全てから手を引いてもらいたい。企業や不動産買収の世界から」
「ということは、アンダーソン&カンパニーを解散させろということか?」
「まあ、そういうところだな」
「クレッグ、ふざけたことを言うな! アンダーソン&カンパニーに働く10万人近くの社員はどうなるんだ!」
「そんなことは知ったことじゃないよ。会社にいっぱい金があるんだろうから、大金の退職金でも払うなりで、お前らで考えろ!」
「全社員にそんなことできるわけないだろう! そんなことをしたら、生活に困り怒り狂った社員から、殺されるぞ!」
「ほらほら来た。また脅しか」
「脅しで済まないね。これは予言だ。それも間違いなく起こる」
「ネイト、お前も大したコンサルタントだなあ。超能力者のように予言までできるようになったんだ」
「冗談は止めろ! 絶好調にある会社を今解散させたら、大きな社会問題になるぞ。少なくとも、会社が上場している株式市場は混乱する。そうなったら、お前は社会的な責任も追及されるぞ」
「覚悟の上だ」
「そんなことをしたら、もう二度とビジネスの世界でも生きていけなくなる。お前はもっと不幸になる。亡くなった奥さんは、それで喜ぶと思うのか?」
「……」

発覚した末期癌
 それまで、ずっとボクとクレッグの口論を聞いていたボブは突然口を開いた。
「クレッグ、わかった。アンダーソン&カンパニーを解散させよう」
「え! ボブ、ちょっと待って下さい。そんなこと簡単に約束して。第一解散にかかわる莫大な資金はどうするんですか?」
「いいんだ、もう。資金はワシの個人資産を処理してなんとかする」
「おい、クレッグ! お前本当にボブにここまでやらせるのか? ボブが受け入れても、ボクが許さないぞ! お前の自己満足のために相当な犠牲者が出るからなあ」
「ボブ、今の言葉は本当か? 本心か?」
「そうだ、クレッグ。丁度いいんだ。ワシも体の調子も悪化してきたし、いつまでもこのままじゃあいけなと思っていた矢先だ」
「体の調子が悪いって? 死ぬわけじゃあるまいし」
「いや、クレッグ、そうなんだ。実はまだ誰にも言っていないから、ここだけにしてほしいだが、ワシは末期癌だから、もう半年はもたないだろう。後継者もいないから、会社も解散した方がいいのだろう」
「ほっ、本当か? 末期癌というのは?」
「今更嘘を言ってもしょうがないだろう。もう、半年の命なんだから、すぐ嘘はバレる」
「……」
 さすがにクレッグも言葉を失ったようだ。
「ボブ、わかりました。そんな事情とは夢にも思わなかった。あなたがしたいようにして下さい。あなたの命と引き換えなら、社員も理解するでしょう」
「ありがとう、ネイト」
「ちょっと待ってくれ。ボブ、あなたが半年後にこの世からいなくなったら、オレの復讐の意味がなくなる」
「ワシの寿命にかかわらず、したいようにすればいいじゃないか」
「……」
「クレッグ、無駄なことは止めた方がいいようだな。相手がいなくなるんじゃ、復讐もあったもんじゃないからね」
「わかったよ。もう止めた。オレは、ヤマテ・グループからも手を引く」
「なんでだ? お前が辞めても、ヤマテ・グループは、アンダーソン&カンパニーとの戦いから退くことはないぞ」
「元々ヤマテ・グループは、アメリカの企業買収業界でオレを利用しようとしただけだ。オレも、ボブやアンダーソン&カンパニーを叩き潰すために、彼らを利用しようとして組んだだけ。本気で長くいっしょにやるつもりはなかった」
「今度は彼らから裏切り者扱いされるぞ」
「いいよ、彼らも完全にオレのことを信用しているわけじゃないから。今日のこの面談だって、一人で行くって言い張ったが、スパイとして送り付けてきた、さっきの秘書を同席させるよう命令してきたんだ。だから、彼を帰した時点で、オレの行動は怪しまれ始めているはずだ」
クレッグが妙なことを言い出した。
(彼はヤマテ・グループを見方につけていたのではないのか? ちょっと嘘っぽい。ボク達を油断させる口実か?)

盗聴されていたボク達の会話
「あの秘書よくすんなり帰ったなあ?」
「ネイト、お前も甘いね。オレたちの会話は盗聴されていたんだよ」
「え! どうやって?」
「さっき、秘書が盗聴器をソファーの下に置いていくのが見えた」
「どっ、どこだ?」
「オレが突然ソファーに座り込んだだろう。そのときに、盗聴器もいっしょに踏みつけて潰してやった。ほら、見ろよ」
「なんでそんなことを?」
「オレも伊達にボブと付き合っていたわけじゃないよ。下のロビーで会った瞬間に、ボブがすべてを投げ打って手を引く意思があることを察知した。それで、嫌がる秘書を強引に帰らせたんだ」
「じゃあ、なんであんなに恨み辛みをボブに言ったんだ? 土下座までさせて」
「盗聴されていたからしょうがないじゃないか!」
「なんで最初に言ってくれなかったんだ?」
「復讐しようと思って会ってたんだ……。でも、もうオレの復讐は終わった。結果的に、お前が言うように自業自得だったな。結局、オレだけが悪者で終るだろう」
「クレッグ、悪者はワシだ。君をそんなに苦しめていたなんて思いもよらなかった。もう、ワシも終わりだ。いや、終わりにした方がいい。今決めたんだが、お詫びの印として、もし、君がワシの後を引き継いでくれるなら、アンダーソン&カンパニーを譲りたい。社名も君の名前に変えてくれ」
「そっ、そんなバカな。何を言い出すんだ、ボブ。末期癌で血迷ったか?」
「継ぐ人間もいないのだから、アンダーソン&カンパニーは、もう死んだも同然だよ。だから、君が言うように、精算させるしかない。できれば、なくしたくないから、ワシの今の願いは、君が引き取って続けてくれることだ。社員のことを考えると、なんとか生かしておきたい」
「なんでオレなんだ? オレはアンダーソンを裏切った人間だぞ。たとえ戻ったとして、軽蔑している社員もいっぱいいるはずだ。彼らがオレについてくると思うか」
「たしかに今の段階なら、いやがる社員もいるだろう。特にワシに近い人ほど。しかし、ワシは全社員の前で土下座して頼むよ。君を中心に団結して、アンダーソンを守ってくれと。すべてはワシが人を大事にしてこなかったために起こったことで、生き残る道は君がリーダーとなって引っ張ることだと」
 ボクは涙が止まらなかった。企業存続のために自分を裏切り復讐している昔の部下にまで、土下座をして頼んでいる姿は、一見惨めそうだが、まさに「投資の神様」と言われるに至った王者の風格を見たのだ。

裏切り者が社長に復帰
 プライドも立場も捨てきり、平伏し続けるボブに、クレッグは詰め寄った。
「ボブ、すみません。オレが間違っていた。たしかにあなたは、オレに対して厳しかった。非人間的な扱いもされた。しかし、自分に負けたんだ。もっと、あなたに信頼を得る努力をすれば良かったんだ。自分のプライドを守ることで必死だったんだ。今のあなたのように、プライドを捨てて、素直に受け入れていれば、きっとこんな風にならなくて済んだに違いない。オレも今ようやくそれに気がついた。すべてをあなたの責任にして弱い自分から逃げていたんだ」
「そうか、そう言ってくれるなら、悔いなくこの世から去れる。君と別れてから、君のことが気がかりで気がかりでしょうがなかったんだ。生まれて初めて、自分の経営手腕に自信を無くした。でもよかった、君が後を継いでくれるなら理想的だ」
「オレもやり直すよ。皆から信頼されるリーダーを目指すよ」
 あまりの長時間の緊張のため、ボクも目まがいしてきて、倒れるかのようにソファーの上に座り込んだ。
「あーあー、やれやれだ。一時はどうなるのかと心配したよ。でも、ボブ、なんで末期癌のこと、皆に黙っていたんだ? 特にボクを含め身近な人にだけにでも、言ってくれればよかったのに。いや、ワシ自身も医師から知らされたのは、つい最近だ。家内は知っているが、あとは誰も知らない。正直言って、今はパニック状態で誰までに話していいのかすらわからない。だから、内緒にしておいてくれないか。頼む」
「わかった。ボブがいいと言うまで誰にも話さないよ」
「ボブ、もう休んでくれ。アンダーソンのことは、これからオレがやるよ。必ず誰がリーダーをやっても、生き残れる企業にして見せるから」
「クレッグ、君からそんな言葉を聞くとは意外だった。君がワシから去ったとき、正直言って、息子が家出をしたような気分になったんだ。すごく後悔した。なんでもっと包容して応援してあげられなかったのか、落ち込み思い出しては自分を責めた。ワシはリーダーとして失格だと。それでこの末期癌だ。罰が当った以外何ものでもないと痛感した。だから、死ぬまでに少しでもいいことをしておきたいと願った。でもその願いが今日、君が戻ってきてくれることで叶った。もう何も言い残すことはない」
「ボブ、何言ってんだよ。いつもの厳しいボスらしくない。今すぐ死ぬみたいで気持ちが悪いよ」

土下座の威力
 とんだ展開になった。でもいい展開だ。
クレッグに会うまでは、三つの解決策を考えていた。
 一つは、情に訴える泣き落とし。もう一つは、彼に高額を支払う案。最後は、法的な脅しだ。
 正直言って、どれも上手くいく自信はまったくなかった。クレッグが戦う目的は、お金でも地位でも名誉でもなかったからだ。単に、ボッブに対して復讐したかったのだ。正に、捨て身の戦いだ。
 長年、国際交渉のお手伝いをしてきて言えることがある。相手が捨て身でこられると、どうしようもなくなる。打つ手がない。
 それは十分にわかっていた。だから、今回くらい事前に戦略も戦術も立てられないケースは稀だった。
 でも黙って見ているわけにはいかない。まず会わなければ、相手の本音すらわからない。
 四半世紀近くコンサルタント業をやってきて何度も体験した。トラブルはいつも相手のとの感情のもつれからくる。
だから、最善の解決方法は、誠心誠意の対話だ。その対話を避けると、解決どころではなくなる。誤解が誤解を呼んで、憎しみと変わり、どんどん感情的になり、収拾がつかなくなる。
 そんなことで、大至急、腹の割った誠実な対話を持つことが、最優先事項となる。その対話の中で心から謝るとき、土下座をする。
 土下座は日本だけのものと思っていた。しかし、地に頭をつけるという行為は最も、誠実な行為という点において、世界共通の神聖な謝罪方法なのかも知れない。
 少なくとも、土下座の威力は凄い。する人が偉い人であればあるほど、土下座された方は心を打つ。
 今回のケースも、交渉の最中ではおくびにも出さなかったが、後にクレッグは語っていた。「投資の神様」と言われ、業界きっての実力者であるボブから土下座された瞬間、すべてを許す気になったそうだ。
 土下座にはそれだけの威力がある。おそらく格好よりも、その捨て身の姿勢が、受けた方に感動を呼び起こすのだろう。
 正に土下座は、人の心を感動させ、奇跡を呼ぶ。ボブもこの事件の後、亡くなる直前に言っていた。
「日本の土下座文化には脱帽だ。アメリカ人が口先で謝るのと違い、本物の謝罪方法だ」と。

世のため人のために生き抜いたとき、奇跡は起こる
 この事件から10年以上が経った。
 クレッグが再び社長となってリーダッシップを発揮していったアンダーソン&カンパニーは、奇跡的な急成長を維持し、世界的な投資グループに。
 そして、もっと驚いたことがある。ボブが10年以上生き延びたことだ。
事業から一切身を引いたボブは、それまでに築いた富を、大学、病院、孤児院などにどんどん寄付していった。
知る限りにおいて、その額1000億円は軽く越すだろう。
 彼は稼ぐ発想から、稼いだお金を世のため人のために使う発想へと変わっていった。
「稼ぐは経済学、使うは美学」
 ボクが尊敬する経営コンサルタントの飛岡健氏がいつも言われることを、ボブは亡くなるまで実践していった。
世のため人のために、一日でも長く生き延びたいという強い強い願いが、結局半年の命を10年以上も引き伸ばしたのだろう。
 亡くなるときにボブが言った言葉を、ボクは一生忘れないだろう。
「ネイト、世のため人のために生き始めたとき、人間には奇跡が起るんだね。そのことを教えてくれた君に出会えてよかった……」と。