「村上ファンド」の出現は「ベンチャー戦国時代」の象徴


 言えることは、「村上ファンド」の出現も、米国同様「ベンチャー戦国時代」に入ったことの象徴であり、自然の産物だ。

 これらは、何を意味しているのだろうか。

「村上ファンド」の動きを見ていると、今一度、本当の「資本主義経済とは?」を考えさせられる。

 これは、前々から不思議に思ってきた次の疑問を再度思い起こさせられる。

「なぜ、日本の上場企業の最高経営責任者(CEO)は命懸けで社運を賭けた戦いをしないのだろうか?」と。

 米国の上場企業の経営者の場合、一度CEOになったからには、業績をよくしなければ、問答無用で直にクビになる。

だから、解雇や事業の売却等々でドラスチック過ぎて非難・中傷の対象になるが、怯まず、己が信じる経営を続ける。

なぜなら、株主は普通の経営よりも、そのCEOならではのユニークな経営を期待しているからだ。でなければ、わざわざそのタイミングでCEOとして指名される意義がなくなるのだ。その分権限を持たされると同時に、責任も課される。


世界最大の航空会社、アメリカン航空のCEOを20年以上務めた、ロバート・クランデル氏と、「外食産業の神様」と言われた、ブリンカー・インターナショナル創業者、故ノーマン・ブリンカー氏と会食していた時のこと。あまり弱音を言わないクランデル氏がポロっと本音を語った。

「よく、報酬が高過ぎると叩かるけれども、上場企業のCEOをやるということは、命を擦り減らすことなので、寿命代と思えば、必ずしも高いとは思えないのだけどなあ…… CEOは、『ストックホルダー』即ち、顧客、社員、取引先、株主を満足させ、いい業績を出して当たり前で、そうでなければ、すぐにクビになる。また、『ストックホルダー』のために、一生懸命やっていても、突然、『ストックホルダー』から無実無根のことで訴えられる。もっと参るのは、必死になって競合他社との戦いに勝ち続けているのに、新興ベンチャー、例えば、サウスウエスト航空が急成長していたら、『何で人材や資金がもっと豊富なお前のところ(アメリカン航空)もそのくらい伸びないのだ!』と叱られ、CEOとしての責任を追求される。自分ながらよく20年も、大手上場企業のCEOが務まったなあと感心している。おそらく寿命は10年以上磨り減ったと思うが……」

 聞きながらずっと相槌を打っていたブリンカー氏が、すかさず言う。

「その通りだ!」と。


 意外だったのは、米国の大手上場企業のCEOが一番恐れていたのは、既存の大手競合他社ではなく、これから出てくるであろう新興ベンチャーだったのだ。理由は、株主は、もし新興ベンチャーの方が、将来性があると判断したなら、さっさと所有している大手企業の株式を売り、新興ベンチャーのに買い換えるからだ。お陰で株価はあっと言う間に下がる。