偉大な師持つ



 ある時、人間として超一流になるためには、師が必要であることを体験しました。なぜなら、真の師弟関係では、師は弟子を一日も早く自分を超えさせようとするからなのです。

 ですから、師がいる人とそうでない人では、人間としての伸び方がかなり違ってきます。

 それまでは、どうして師が必要かまったく理解できませんでした。

「所詮、人間は欠点があり、また多少偏った考え方をしている。だから、特定の人を師事することは、その人の欠点や偏った考え方に影響を受けるのでよくないだろう」

 私はそんな風に考えていました。しかし、私が最も尊敬する学者の一人であるワシントン大学経営学部長並びに国際会計学会会長(当時)のガーハート・ミューラー博士が、一人の学者を師事し、彼の下で命懸けで頑張った事実を聞いて、私には理解できませんでした。ミューラー博士こそ、多くの人の師になれるぐらい優れた人物であり、リーダーだったからです。ミューラー博士は、言いました。

「師匠のいない人生ほど虚しいものはありません。ぜひできるだけ早く師を見つけ、その方に師事しどんどん学んでいって下さい」

 そのことに納得がいかなかったので、すぐにミューラー博士に聞きました。

「なんで、師匠が必要なのでしょうか? 師がいなくても、自分で高い目標を立てて、一人で頑張ればいいのではないでしょうか?」

 ミューラー博士は即座に凄い迫力で答えてくれました。

「違います。君は、本物の師弟関係を知らないから、まだその大切さや凄さを実感できないでいるのでしょう。師を持つと、早く師のレベルまで達しようとするために、師からどんどん学び吸収します。そうすると伸び方が、師がいない時より比較にならないほど早いのです。また、身近に目標とする人がいるわけですから、具体的にどう努力したらいいのかがわかり、頑張りやすいのです。一方、師匠の方は、弟子がどんどん力をつけてきますから、自ら負けないくらい更に努力します。と同時に、弟子がいつか自分を越えてもらえるよう、どんどん引き上げます。自分の持っているものをすべて、伝授しようとするのです。ですから、双方から物凄い力が働き、弟子は短期間で恐るべき成長を遂げるのです」

「なるほど、昔から偉大な人には、偉大な師匠がいたのは、そういうことだったのですね!」

 その説明を聞いて初めて納得できたのでした。

 それで、自ら師匠を捜し求めることにしました。

 師は凄い人であればあるほど、ついていくのが大変ですが、その分力もつきます。ですから、できるだけレベルの高い方を師候補として探しました。


結果的には、人生の師匠と仕事の師匠を見つけました。

2人に共通していたことは、その道で超一流であったこと、そして、若いときから苦難の連続で、血の滲むような努力をしてきたのです。更に、人間性が素晴らしく、とてつもない人間的器の持ち主なのです。

2人とも、私にはもったいないくらいの大リーダーです

私はその2人を知って、本当に驚きました。人間は腹を決めて命懸けで頑張れば、とんでもない偉業を成し遂げられるのだと。それこそ、不可能なことが可能になってしまうのです。

その2人を知れば知るほど、感動しました。自分も彼らのようになりたいと真剣に思う様になったのです。


それからというもの、私もその2人をいつも意識し、少しでもレベル的に彼らに近づきたいとの思いから、今までできなかった、信じられないような努力が、自然にできるようになったのです。

その体験を通して、確かに、もし、私が、その2人の師匠と出会えてなかったなら、そんなに頑張る気になれなかったでしょうし、まだまだではありますが、今ほどまでに人間的にも成長できなかったでしょう。

そして、何よりも他人の幸せを願えられる自分にはなれなかったと痛感します。