労苦と使命の中にのみ



「労苦と使命の中にのみ、人生の価値(たから)は生まれる」

 これは、私の母校である創価大学で、創立者池田大作氏が開学の日に、学生に贈られた指針です。初めて伺った時、この中に人生の真理が秘めていることを痛感しました。

 人生は自らが使命の道を自覚し、労苦を積み重ね、人間的に成長していく過程の中で、真の価値が生まれ、謳歌していけるのではないでしょうか。

ここで言う使命とは、与えられた自分にしかできない重大な任務ことを指します。

 一部の学生や若い人の間で、マネーゲーム的感覚や発想で、楽をして短期間で金儲けをすることが、カッコいいとか、価値的とか、費用対効果がいいということで、評価されているようです。

 でも、そのやり方で最近儲けた代表的な二人を見ると、その評価の妥当性は極めて疑問です。一人は、ライブドアの堀江貴文元社長。もう一人は、「村上ファンド」の村上世彰前代表で、結局、二人とも法を犯し社会的に葬られてしまいました。

 堀江氏は、「金で買えないものはない!」と、また村上氏は、「株の売買で、短期間で巨額の利益を得て何が悪い! それこそ、資本主義の論理に合っているではなか」というニュアンスの発言をしていました。それを聞いたとき、不思議に思いました。

確かに理論的にはそうなのかも知れません。しかし、現実社会では、必ずしも正しいとは言えないのではないでしょうか。私も日米アジアで数々の修羅場を経験していますが、お金で解決できることは、実はそんなになかったことを記憶しています。

過去に追い込まれた際に、解決できた最高の方法は、誠意ある言動でした。

「どんなに怒った相手でも、誠意が伝われば、理解し協力してくれる」

 これが、私が修羅場を乗り切ってきた結論です。お金で解決しようとしたらとんでもないことになります。相手は所詮感情の動物である人間ですから。

 場合によっては、「こんな大事なことを金で片をつけようとする気か! バカにするな!」という具合に、返って相手の感情を逆なでにすることになりかねません。

お金で買えないものは、いっぱいあります。例えば、人の心や時間です。また、一度失くした信用や人間関係は、お金では買い戻せません。

よく、「破壊は一瞬、建設は死闘」と言われるように、長い間かけて必死に培ってきた信用や信頼関係でも、ちょっとした軽率な言動で一瞬にして失ってしまうのです。

私も何度そのことで何度失敗してきたことか。今でも思い出すだけで、青ざめ、申し訳ない気持ちで一杯になります。

成功するためには、労苦と使命は不可欠だと思います。労苦、つまり頑張ることは、当たり前なのですが、方向性、要するに使命感が間違っていたら、とんでもないところに、突き進んでしまいます。とても危険です。

正しい使命を持ち、その上で労苦を厭わずやっていく尊い生き方があってこそ、人生は大きく好転していくのです。

この場合の正しい使命とは、今置かれた自しかできない任務なのです。


 それでは、どうしたらその使命はわかるのでしょう?

 私は、使命とは、経験上、一生懸命探しても、ポーンと出てくるものではないと思っています。今目の前にあるやるべきことを全力でやり続けていった時、自然に誘導されていくのです。これは私自身何度も何度も経験しました。

 逆に、今やるべきことをほったらかしにして、使命を探したところで、見つかりません。それは、単なる現実逃避でしかないのです。

 プロフットボール・チーム「ダラス・カーボーイズ」を何度も全米チャンピオンに導いた「伝説のクォーターバック」で、米国有数の不動産コンサルタントになったロジャー・スタバック氏は、かつて次のことを語ってくれました。

目の前にあるやるべきことをどんどんこなすうちに、段々本当にやるべきライフワークに引き込まれていきます。気がついたら、それは自分にしかできないことなのです。そして、それを徹底してやり続けることで、自然と成功を手にしているのです」