積極的に「聞き上手」に



 日本の大学を出て、米国で就職したての頃、「フォーチュン」という有名なビジネス雑誌が、米国を代表する大手500社の最高経営責任者(CEO)に対してアンケート調査をしました。そのアンケート調査の質問の一つに、「ビジネスパーソンが仕事をする上で、最も重要な能力は何か?」がありました。それで、圧倒的に多かった答えが、「コミュニケーション能力」でした。

 当時私はとても不思議に思いました。なんで「『コミュニケーション能力』なのだろう? それより、専門能力や協調性の方が大事じゃないのかなあ」と。

 あれから、ビジネスの世界にどっぷり浸って四半世紀近くになります。今は、本当に「コミュニケーション能力」が一番大事だと実感します。

 なぜ「コミュニケーション能力」が大事なのでしょう?

 答えは簡単なのです。我々は、一人でビジネスをしている訳でなく、何をやるにしても、様々な人の協力や支援が必要だからなのです。その協力や支援を得るためには、効果的なコミュニケーションが大きなカギになります。ですから、コミュニケーションの上手い人は、周りの人から理解を得、どんどん協力や支援を得られます。

 逆にどんな素晴らしいプロジェクトでも、「コミュニケーション能力」がない人が、中心になってやると、上手くいかなくなります。これは、20年以上企業へのコンサルティングをしてきて、何度もそれを経験してきました。

「ビジネスで成功できるかどうかは、関係者の力をどれだけ引き出せるかによる」

米国を代表するエンジェルで大富豪でもあるテキサス大学元経営学部長、ジョージ・コズメスキー博士のこの言葉です。結局、関係者間でのコミュニケーションがしっくりいかないと、団結ができないですから、成果も出ません。ビジネスに長年携わってきた人なら、この点賛同してもらえることでしょう。

 それでは、もっと踏み込んで、コミュニケーションを成功させるカギとはなんでしょう?

 いくつかあるようですが、私は、その最も大事なポイントの一つは、自ら積極的に「聞き上手」になることだと思います。

 コミュニケーションいうと、一般的には、話したり、プレゼンをしたりすることを指します。つまりアウトプットすることが中心に考えられますが、実はそのアウトプットより大事なのは、インプットなのです。

 なぜかわかりますか?

 相手の状況、考え、また主張を正しく理解しないと、相互のコミュニケーションは、成り立たなくなるからなのです。我々は、使えるリソース、つまりヒト、モノ、カネ、情報がきわめて限られている世界で生きています。その限られたリソースをフル活用して、限られた時間内で成果を出さなければなりません。

であるならば、今自分や周りの人が置かれている状況、問題点、そして許容範囲をしっかり把握しなければ、正しいアウトプットはできません。

これは当たり前のことです。例えば、事業計画を立てるのにも、その前提である仮説が間違っていたら、不正確な事業計画となり、使い物になりません。

仮説を間違える最大の理由は、正しい情報を得ていないからなのです。正しい情報を得られないのは、的確なインプット、要するに、関係者からいい情報を得る作業となる「聞き上手」ではないのです。よって、物事、特にビジネスを成功させるポイントは、まず正しいインプットをすること、言い換えれば「聞き上手」になることなのです。

これは、あまり実践されていません。私が個人的に知る限りで、それを実践してきた人は、ワタミの渡邉美樹社長、ソフトブレーン創業者の宋文洲氏、ファンケル創業者の池森賢二氏、イー・アクセスの千本倖生会長、住宅金融支援機構の島田精一理事長、トヨタ自動車の渡辺捷昭社長、富士ゼロックスの小林陽太郎最高顧問、シダックスの志太勤会長、新潟総合学院の池田弘理事長、フォーバルの大久保秀夫社長です。いずれもコミュニケーションの「超」達人であり、その結果として、組織の効果的なリーダーになられています。

皆さんの周りにも、積極的に「聞き上手」になる努力をされている人がいると思います。彼らは周りから絶大な信頼を得ているはずです。