すべては振る舞いから



「社長、大丈夫ですよ。そのくらい私が稼ぎますから!」

 社員がどんどん増え、事務所が手狭になりつつあった会社の専務が、新しい事務所候補の一つを訪問したとき社長に言い切りました。

「そうか、専務がそこまで言ってくれるのなら、ここは今のうちにとってはかなり大きく、高いから、もったいないような気がするが、ここにするか……」

 社長もその気に。それで専務もいよいよ勢いづいて。

「そうですよ、そうしましょう。一等地で、ビルも高級だし。この事務所に合わせてレベルアップすればいいですよ! まあ私がその分稼ぎますから、社長、心配なく!」


 その会話を同社顧問として横で聞いていた私は、危険を感じました。収入が増える当てもなく、家賃が倍以上になる事務所に移るのです。私が社長なら絶対しない決断です。

最も気になったのは、その専務の振る舞いです。言動がとても調子がいい。学歴のない社長は、重要な決定にはいつも東大卒のその専務のアドバイスを聞いてきました。そして悉く失敗を。しかし、専務は失敗の度に見事な言い訳をし、社長を納得させてしまいます。

その会社に営業の責任者として中途入社してから約2年間、専務はほとんどまったくと言っていいほど営業成果をあげることができませんでした。専務も専務ですが、そんな専務の言葉を鵜呑みにする社長も社長です。

新事務所に入って気をよくしたアル中に近い専務は、毎晩営業という名目で、会社の経費で嫌がる若手社員を連れてガンガン飲み歩く始末。会社は、結局新事務所に移転した2年後、家賃や急増した経費が払えなくなって、倒産してしまいました。

私は後悔しました。私が以前米国で顧問をしていたウォルマート創業者、サム・ウォルトン氏の口癖を教えるべきだったからです。

「人を判断するのなら言葉ではなくすべては振る舞いから」と。