自分にダメ出しばかりしている人は、頑張っている自分を時々褒めよう



「頑張れること自体もうダメでない証だ。頑張り始めたら結果は必ずついてくる。だから、頑張れる自分を信じ、黙って褒め称えてあげよう」



 大正時代の作家で大学の講師でもあった会津八一氏が、実家に住まわせた学生達に与えた心得(学規)の一つに次の言葉があります。


「深くこの生を愛すべし」


 とても、含蓄深いものではないでしょうか。

最近自分を傷つけたり自殺したりする人が急増している中、この自分の生を愛するという考え方はとても大切になってきています。

 自分を愛せるから他人も愛せる。ですから、自分を愛せない人は他人も愛せませんし、他人を愛せない人は、実は自分も愛せないのです。

 結局、自分も他人も人間です。要は、人間を愛せるかどうかなのです。


 自分自身を「ダメだ、ダメだ」と思っている人は、自らダメにしているのに気づいていません。

 私自身、元ダメ人間だった者として、言わせて頂くと、自分がダメでなくなるときは、まずありのままの自分を全面的に受け入れること。そして、昨日より今日、今日より明日と、少しずつ自分を高めていこうと頑張り始めたときです。

「頑張っているじゃないか、自分!」

 ためにはそのくらい心の中で褒めてあげたらいいのです。


 米国にいた時、私の家から車で3時間くらいかかるところに住んでいた、アメリカ人の父と日本人の母を持つ、ヨシオ・スミスとい若者がいました。

ヨシオは自分ほどダメな人間はいないと真剣に思っていました。

 高校生1年生の時に、付き合っていたクラスメイトの女の子を妊娠させ、そのまま高校を中退。その後麻薬に手を出し、それが親に発覚して勘当される。むしゃくしゃして、コンビニエンス・ストアーに強盗に入って捕まり、とうとう刑務所行きとなりました。


 私がヨシオと初めて出会ったときは、出所したばかりで、一時的に日本食レストランでウエイターをしていたのです。

私はたまたま車での出張の途中、お腹が空いたので、そのレストランに食べに立ち寄ったのでした。

 注文を取りに来たヨシオの顔があまりに暗かったので、注文することを忘れて聞きました。

「こんにちは、ボクの名は、ネイト(私の米国でのニックネーム)。ダラスから車で来たんだ。3時間もかかっちゃったから疲れたよー。君の名は?」

「ヨシオだよ。オレはアメリカ人と日本人とのハーフなんだ。悪さしたから、両親から勘当されたけどね……」

「だから、元気ないんだね」

「まあねー。気にしてくれてありがと!」

 これがきっかけとなって、何となく気が合った私達は、電話番号を交換して連絡を取り合うことにしました。


 ヨシオと特に親しくなったのは、彼が職探しのために、ダラスに来た時、私の家に泊まってからです。

 ヨシオの口癖は、「オレッて、本当に何やってもダメだよなあ」でした。

 ある時、私は彼に怒りました。

「そんなに自分のこと、ダメダメ言うなよ! 頑張っているんだからダメじゃないよ。たまには、頑張っている自分を信じ、褒めてあげた方がいいよ。その方が、成果は出やすくなるから。嘘だと思ったら、素直にやってみてごらん! 凄い成果が出るから」

 付き合っていくうちに彼のことが段々好きになりました。だから、ヨシオ自身が自分のことを「ダメだ、ダメだ」と言っているのを聞くと、私自身まで否定されたような気になり、さすがにカチッときたのです。


 それからしばらくして、ヨシオは運良く、非営利法人(NPO)「青少年非行防止のための団体」の事務職員のアシスタントとして採用されたのでした。

その仕事は、彼にとってまさに「水を得た魚」のように生き甲斐を感じるられるものとなりました。

それもそのはずです。彼が通ってきた辛い道を、青少年に歩まさないように指導することですから。ヨシオが青少年達と話すとき、とても生々しくて説得力があるとのことで、訪問する先々の学校でも大好評となりました。

そうこうするうちに、仕事に対する情熱とリーダーシップが高く評価され、ヨシオは、その組織のナンバー2となる事務総長に大抜擢されたのです。


 私は彼に聞きました。

「凄いじゃないか、事務総長にまでなって! 正直言って、ビックリだ! ダメだ、ダメだって言い続けていたのに、どうやってそんな成果出したんだい?」

「ネイト、何言ってるんだい。だって、『頑張っている自分を信じ、褒めてあげた方がいいよ』って言ったのネイトじゃないか。オレは言われた通りやったまでさ」

 確かにヨシオの言う通りですが、さすがに短期間でそこまで大きな成果が出るとは、私も驚きです。