相手の知恵を借りる

 豊臣秀吉公や松下幸之助氏で代表される立身出世したリーダー達には、独善に陥らず、いつも相手と一緒に知恵を絞り合うという共通点があります。出世する中で、自分の限界を何度も垣間見てきたからではないでしょうか。

 つまり、自分の能力のない分、周りに人から知恵をもらって力を発揮するやり方です。柔道でいうと、自分に力がなくても、相手の強い力を利用して技を決める背負い投げのようなものです。

 ところが、頭がいい人ほど、なんでも自分だけで考え、決めようとします。自分の力を過信しているからなのです。

運がいい時は、それでも済むかも知れません。しかし、どんな運のいい人でも、幸運が続くということは有り得ません。

 また、どんなに凄い人でも、いつもその人の考えが正しいということは、有り得ないのです。人間ですから、必ずどこかで間違えます。

 そんなことから、意思決定で成功するためには、どうしたらいいのでしょう?

私は先人に学ぶことだと思います。

 要するに既に述べた、歴史上立身出世した人達が、毒善に陥らず、周りの人と知恵を絞り合って決めていたことを、そのまま真似すればいいのです。

「三人寄れば文殊の知恵」とよく言われますが、成功する確率を高めるためには、自分一人の限られた経験・知識・情報・判断力だけに頼らず、周りの人の知恵も拝借すべきでしょう。

 米国でも、何か新しいことを始める際や問題が起こった時、必ずやることが、関係者の英知を結集させるためのブレーンストーミングなのです。ブレーンストーミングとは、一般的に集団思考法と訳され、関係者で自由な討論をすることで、創造的なアイディアを生み出すことです。

 そう言えば、初めてソニーの盛田昭夫氏、松下電器産業の松下幸之助氏、本田技研の本田宗一郎氏にお会いした際も、私の方が教えを請うはずだったのが、「君どう思う?」という感じで、却って意見やアイディアを求められたのを思い出します。

 偉大なリーターは、一流の行動力の人であり、絶えず相手から知恵を引き出すことに長けています。ゼロから茨の道を切り開き、自らの努力で組織を作り上げてきたのです。それだけに、自身の力の限界を感じておられたのかも知れません。

 人種のるつぼである米国に20年いて、感動したある出来事がありました。それは、様々な人種の人々と力を合わせて一つの目標に向かって努力した時、とんでもない大きな成果を出せたのです。

 例えば、ある半導体関連企業を立ち上げることになったのですが、人材、資金、知名度、経験、パートナー、信用等々の成功に必要なものは何もありませんでした。あったのは、アイディアとやる気だけです。

 それで、全米で人材を募集したところ、結局、集まった人達は、白人と黒人のアメリカ人以外に、中国人、韓国人、インド人、メキシコ人、イラン人、インドネシア人、フィリピン人、イスラエル人、イタリア人、ドイツ人、オランダ人など。まるで国連軍のよう。

 でも、皆全米からわざわざ集まっただけあって、同じ目標である、その事業の成功のために物凄い闘志とやる気を燃やし、見事に団結したのです。その結果、1年未満の短期間で事業を軌道に乗せるという快挙をやってのけました。

 その時、成功の大きな要因になったのが、リーダーだけでなく全員で継続的に知恵を出し合い、役割分担し、それらをすぐに実行していったのです。

 私が尊敬するある経営者もそうです。上場していない中堅企業なのですが、超高収益を創業以来30年以上続けています。

 社長は、いい意味でワンマンなのです。と言うのは、いつも意思決定をする時には、最終的に彼が決めます。

しかし、まず関係者の意見やアイディアをじっくり聞きます。様々な選択のプラスとマイナス面を十分理解しようとするのです。その際、皆から率直な意見を遠慮なく自由に言わせるのです。

そして、ほとんどの意思決定では、その意見やアイディアを彼自身の考え方にしっかり反映させた上で決めるのです。決して独善に陥ることなく、です。