仕事の一環としてお客様や取引先の方と移動することもある。その際、気をつけなければならないことは、相手とあなたの座席をどこにするか、だ。
基本は、お客様が入口から一番遠くて一番座りやすく、一番見晴らしのいい座席ということになる。よくマナー本には、そのことが細かく書かれている。
しかし、最も大事なことがある。それは、基本は基本であり、それに固執し過ぎてお客様の好みを無視することだ。つまり、基本がわかった上で、相手や状況を考慮しての応用が最も大事だという点を忘れてはならないのだ。
たとえば、車にお乗せする場合、運転手の真後ろに座っていただくのが、一番いいとされるが、お客様によっては、タクシーであっても前に座りたがる方もおられる。初めてその地域に来られて、前に座ってできるだけ周りの光景を見たいのだ。
どんなときでもマナーやエチケットの常識に基づくのは大切であるが、それよりもお客様が一番好まれることを優先すべきだろう。
私の昔のお客様で、5000億円の売上の会社を一代で創り上げた八十歳になられる社長さんがおられた。彼とは視察で海外にも何度もいっしょに移動させていただいたが、通常一番いい上座とされる席に座るのをとても嫌がられた。
社長はとても庶民的な方で、たとえ客という立場でも、経営指導をしてくれる経営コンサルタントのほうが偉いと思いこんでいた。三十歳近く歳上で、人生の大先輩ということもあって、彼がいつも私にいい席を譲られることに、私は本当に困惑した。
しかし、彼は心からそれで満足されていたのだ。
そのとき思った。エチケットとして、相手に一番いい席をお勧めするのは基本だが、最後は相手に決めてもらうことが、良き人間関係維持のためには最も大切だと。
とにかく、相手の気持ちになって、相手の意思を尊重しよう。
大事なことは、相手に心から喜んでいただくこと。
そのためには基本を知った上での応用、つまり融通性のある気配りを徹底させることだ。