「大体、競合他社がやっていないことを、どうして当社が最初にやる必要性があるのですか? めちゃくちゃリスクがあると思いますよ。私は反対です! 第一、失敗したら誰が責任をとるのですか?」

 あるとき、急に新規事業を始めることになった。その検討会議で仕事のできるW先輩が興奮して叫んだのだ。

「う~ん。それも一理あるなあ。しかし、他社と同じことをやっていても、いつまで経っても、ドングリの背比べ状態は変わらないだろうな。役員会では、今までとはまったく違った何か新しいことを国際部でやるよう命じられているし……」

 上司も苦し紛れに一言。

「……」

 しばらく全員が沈黙した。

「ネイト(私のニックネーム)、新人としてどう思う? 若いから何か斬新な発想はないかね?」

「はっ、はあ……。Wさんが言われるように、ようやく国際部として強化してきた現事業が伸びつつありますので、今また新しいことをやるのは、リスクが高すぎる気もしますが」

「なんだ、話を聞いていなかったのか? だから、現状にあぐらをかくことなく、何か新しいことを国際部として計画・実行せよと役員たちは言ってきているんだ。何か新しいことはしなければならないのだよ。『新しいことをやるのは、リスクが高すぎる……』って? 何ピンボケなこと言ってるんだ! もっと前向きな発言を頼むよ。せっかくの真剣な会議の場がしらけるじゃないか!」

「すっ、すみません」

 新人の頃、私はよくこんな後ろ向きな発言ばかりしていた。万が一、自分が言ったことが、採用されでもしたら、言いだしっぺとしての責任をとらされるのが怖かったのだろう。そんな怖さも手伝って、無意識のうちに後ろ向き、つまり当たり障りのない発言ばかりしていた。

 それも、自分から積極的に言うのではない。指されて初めて意見を述べるのだ。

 だから、指されて発言するたびに、場の雰囲気を壊し、叱られてばかりいた。そうこうしているうちに、遂に会議にも呼ばれなくなった。

「お前がいると、場がしらけるし、何か言わせると、後ろ向きな発言ばかりで、時間の無駄だ。だから、もう呼ばないことにした」

 そこまで言われると、さすがに堪える。「お前はもう会社にいらない存在だ!」とでも言われていることになるからだ。とにかく、大変なショックだ。

〈なんとかしなければ〉とは思うが、どうしようもない。

 前向きな発言をしたくても、事情がまったくわからない新人なので、無責任でいい加減な発言はしたくない。