「ネイト（私のニックネーム）、一昨日頼んだ会食に招待する顧客リストは？」
私の座席まで来るなり、突然上司が声を張り上げた。
「は？ 顧客リストですか？」
「一昨日、今日の午前中までに完成させておくように伝えたよな？」
「はあ……」
「お前、まさか忘れていたなんてことないよな？」
「忘れてはいませんが、今日まででしたでしょうか？」
「お前今さら何言ってるんだよ！ 間に合わなかったら困るからって、何度も念を押しただろう。全然やってないなんて言わないだろうな？」
「すっ、すみません。あのとき、忙しかったので、忘れてしまいました」
「え！ だろう？ なんで？ 忘れられたら困るからって、確認しただろう？」
「は、はい……」
「お前、上司の私をバカにしているのか？ そうでなかったら、絶対忘れないよな！」
「ちっ、違います。ただ、忙し過ぎただけで……」
「えー！ 信じられないよ！ またやってくれたとは！ これで何回、頼んだことを忘れてきたか、お前わかるか？」
「……」
「私が覚えているだけで、５回はあるぞ！ 忘れっぽいから、言われたら必ずその場でメモをとるよう、いつも言ってるだろ！ 一昨日も、お前はメモをとっていなかったから、不安になったんだ。だから、怖いから何度も確認したんだ。それなのに、またやってくれたよ！なんでメモをとらなかったんだ！」
「すみません。メモしようと思ったのですが……」
「もう、いいよ！ お前にはこれから頼まないから。何度言っても、全然成長しないやつとは、もういっしょに仕事したくないからな！」
遂に私のアメリカ人の上司はキレてしまった。彼の言うとおり、忘れっぽいので、いつもメモをとるよう言われ続けていたのに、私はまたもやしでかしてしまった！
自分で自分が情けなくなった。メモをとるなんて簡単なことが、なんでいつもできないのか、自分でもまったくわからなかった。救いようがないとはこのことだ。自分のことが無性に腹が立った！ ……と同時に落ちこんだ。〈小学生でもできることなのに、なぜなのか……〉。
とても大手経営コンサルティング会社の本社に勤めるプロフェッショナルとしての資格がないと痛感した。
〈どうしよう？ こうなったら、潔く辞表を出すしかないのでは……。ただ、辞めるのは簡単だけど、それでいいのだろうか……？〉
それからというもの、ずっと葛藤し続けた。会社にいればいるほど、私のいい加減な仕事ぶりで、上司や先輩を含め、周りの人たちに迷惑や心配をかけまくると思うと、たまらなくつらい気持ちになった。