いよいよ、夢にまで見た、世界最大級の国際会計・経営コンサルティング会社の牙城であるニューヨーク本社での面接が始まった。

 驚いたことに、面接官は全員日本人。正確に言うと日本人一人、日系人二人の計三人だった。

 私にとってこの面接は、初っ端からラッキーだった! というのは、本来は英語でするはずの面接を、日本語ですることになったからだ。

「君もうちを受けるぐらいだから、どうせ英語はペラペラでしょ!」

「は…はぁ……」

「だったら、日本語でやろう!」

 六十歳ぐらいの面接の責任者らしい人は言った。例の、最初に私に電話をかけてくれた人だ。見た目からも、すご腕で一流のプロフェッショナルだとわかる。低音の声には自信がみなぎり、長身でピシッとスーツを着こなしている風貌からは強烈なオーラが出ていた。

 まさに危機一髪。英語を話せない私には、その威圧感のある一言は、天の助け以外の何ものでもなかった。それもそのはず、英語を喋った瞬間にあまりの英語力のなさがすぐにバレて、「不採用!」となるのは明らかだからだ。

 やれやれと安堵していたが、その喜びも束の間。面接ではいきなり三つの難問を出されたのだった。

「日米の財務システムの違いを端的に説明してください」

「アメリカにおける日系企業の監査上の問題点をいくつか挙げてください」

「日米租税条約に立脚して、国際移転価格税制面での問題点を指摘してください」

 ど素人である私は、どの質問もチンプンカンプンだった。考えてもまったく何も浮かばない。とうとう苦し紛れに一言、こう言うしかなかった。

「今、知識がございませんので、お答えできません。勉強不足で誠に申し訳ございません。しかし、無事入社させていただいた暁には、すぐに完璧にお答えできるようにいたします!」

 私の大き過ぎる声が、部屋いっぱいに広がり、面接官がビクッとした。答えにならないのに堂々としている私。

 わからないことだからどうしようもない。しかし、学ぶ意欲だけは元気よく堂々と伝えたかった。それに、「私は入社したら、バリバリ仕事と勉強をして変わるぞ!」という決意をこめたかった。自分自身に対する気合い入れとして。

 すると、その答え方が面接官3人に気に入られた模様だった。

 一番偉そうな人が負けずに大きな声で、こう応えたのだ。

「君、頼もしいね! そのくらいやる気と元気がないと、うちでは長く勤まらないからね。毎年多めに採用はするものの、知力は当然だが、根性と体力が想像以上に必要なことがわかって、ほとんどの人は続かないからね!」

「はい、期待にお応えできるよう頑張ります!」

「そうか。じゃあ、内定だ!」

「はい? 内定と言われますと、私はもう採用されたのでしょうか?」

「そうだよ。忙しいから、今回は面接を1回だけにする。いつから来られる?」

〈え~! なんとたった三十分間の面接1回だけで採用になってしまった! 奇跡が起こったのだ!〉