「また、間に合わなかったの、締切なのに!」
突然先輩から一喝。
「すっ、すみません。このところ毎日ほぼ徹夜で、必死にやっているのですが……」
「そんなの関係ないよ! それは言い換えれば、君の仕事が遅いってことだろ!」
「何分今回の仕事は初めてですので……」
「何言ってるんだよ。プロフェッショナルである我々の仕事は、毎回初めてのことが多いんだぞ。第一、毎年新人は皆、同様の仕事をやらされるんだ。今までの中で、君だけが極端に遅い。遅過ぎだ! とにかく今日中に終わらせろ!」
「はい、一応、できるだけのことはやってみます」
「まだそんなことを言ってるのか、バカもん! 『一応』だとか『できるだけ』だとか『やってみます』とか。そんな逃げられるようなこと言うなよ! だから、いつまで経っても、君はダメなんだよ。もっと腹決めてやれよ。命懸けくらいの気持ちでやらないと、結果は出ないぞ。ただでさえ、君は頭も要領も悪いんだから!」
「頑張ります」
「だから、『頑張ります』じゃない。そんな誤魔化した言い方するな。『必ずやります!』だ! いい加減にしろよ。オレをバカにしてるのか?」
「そっ、そんなつもりは……とにかく申し訳ございませんでした。命懸けで頑張ります!」
私は、昔からできもしないのに完璧主義だった。時間をかけてできるだけいいものにしようとする癖があった。
しかし、どんな仕事にも、必ず締切がある。どんなに仕事が完璧に出来上がったとしても、締切に間に合わなければまったく意味がない。
100%納得できなくても、部分的には不十分でも、締切までに出せば、50点とか、70点ぐらいはもらえる。とにかく出せば、0点ではないのだ。
ところが、完璧にするため、締切に間に合わず出せなければ、評価はできないので、0点となる。いや、締切に間に合わなかったという点で、0点未満。仕事においては絶対にやってはいけないことをしでかしたわけだから、大きなマイナス点となる。まさに致命的だ。
我々の経営コンサルティングの商売であれば、次回から仕事が来なくなる。それは死活問題。
仕事と趣味・サークルとの大きな違いは、仕事には必ず締切があり、それをどんなことがあっても、間に合わせなければならないということだ。
だから、仕事において、スピードは最も大事なポイントの一つとなる。
新人の頃は、仕事のスピードを速くする大切さがわからないため、努力を怠る傾向にある。
日本でも、今後はどんな仕事でもプロフェッショナル化が進み、過去と違い、スピードを最も重視され要求されることだろう。
勿論、ただ速ければいいということではない。速くて質も高くなければならない。だから、普段からの仕事処理能力の向上の習慣がとても大事になってくる。
結局、この事件の後、先輩に指摘されたように、命懸けで締切を守ることを決意し、格闘しながらも習慣化させた。お陰様で、その後仕事上での締切を一度も破ったことがない。
具体的には、仕事を頼まれたら、まず締切日を確認する。そして、終わるまで緊張感や危機感を維持し続け、目標として締切日よりも早め、つまり1~2日前に提出する癖をつけた。
その癖が定着してから、いつも言われるようになった。
「浜口に頼めば、必ず締切を守ってくれる」と。
締切を守るためには、まず、その仕事をする上での自分のスピードを把握し、どうしたら締切まで間に合わせられるかを逆算するのだ。
もし、全速力でやっても自分一人では終わらない場合、必ず手伝ってもらえる人を確保する。それもできるだけ早いうちに。
そして、スピーディーに仕事をこなすためには、肝に銘じるべきルールがある。それは、完璧を狙うのではなく、70点や80点、つまり合格点を狙うのだ。締切内で仕事を終らせるためには、完璧、要するに満点に固執したらダメなのだ。いつも自分の仕事に納得がいかず、締切内には終わらなくなること間違いない。
だから、自分に言い聞かせるべきだ。
「スピードを最優先し、目指すは完璧ではなく、合格点!」と。