「社会人として伸びるために必要な資質は何ですか」という質問を、学生や新社会人からよく受ける。色々挙げることはできると思うが、私は「素直であること」が一番必要な資質ではないかと思っている。

 実は同じような質問を、高校三年生の時、「経営の神様」と言われた松下幸之助氏にお会いした際、彼に聞いたのだった。

 松下氏はストレートに答えてくれた。

「人間として成長するのに最も大事なことはな、素直になることでっせ。どんなに偉ろうなっても、それを忘れたらあかんで」

 ブスっとつっ立っていた私に、諭すように言われた。

以来、「素直になる」ことは、私の座右の銘と化した。素直でなくなった時、いつも松下氏の言葉を思い出す。

 小難しい知識を身に着けることは、一生懸命やっていればいい。そんなものは、後からついてくる。

しかし、嘘をつかないことや素直でいることなどは、社会人になってからはなかなか身につかないものだ。

人間は見栄を張る、プライドの生き物だ。だからいつもどんな状況においても、素直になるというのは意外に難しい。感情が邪魔をするのだ。

 私も以前嘘をついて、厳しい経験をしたことがある。それも大事な人との信頼関係が壊れそうになった。

やはり、どのような立場になろうとも、分からないことを分からないとはっきり言える謙虚さと勇気は必要だ。

 人間はスーパーマンではない。何でも知っているほうが却っておかしい。どんなに物知りでも、一人の人間の知識には限界がある。世の中わからないことや知らないことばかりだ。だから知らないことは恥ではない。

わからないことがあったら、どんどん聞くべきだろう。

 大切なのは、知らないこと、分からないことをそのままにしておかないでいること。できるだけ早くしっかりと調べる。

分からないことを分かった振りをして、聞かなかったり、調べたりしないのは、ミスや失敗の基。後で恥をかいたり、問題となる。

 むしろ、わからなかったり、知らなかったりしたら、まず徹底的に調べる。それでどうしてもわからなかったら、他人から素直に教えてもらう。

 この当たり前のことができない新人があまりにも多い。ほとんどの人が、返事を曖昧にして、自らを窮地に追い込んでしまっている。

 一度社会人になったなら、素直でない自分と決別しよう。また、自分を飾るのをもう止めよう。今日から素直になって、上司や先輩の言われる通りやってみることだ。その方が、社会人として、またプロフェッショナルとしてどれだけ伸びることか。

 人は素直な人に惹かれる。

「この人のためならなんとかしよう」「この人といっしょに仕事したい」

 皆さんも一度はそんな思いの人がいたことがあるのではないだろうか。

 素直な人には、先輩や上司も知識やノウハウ、更に大事な人脈を教えたがるもの。教えがいがあるからだ。素直にものを聞いてくれるので教えていても快い。