一生懸命に学ぶという姿勢を、私は、上司であったミスターAから学びました。彼が具体的な指導をしてくれたわけではありませんが、猛烈に働き、立派な成果を上げ続けている姿を見て、自然に学び取りました。 


 ミスターAは働きながらMBAを取得し、ロースクールに通って弁護士の資格を取ったという努力家です。法学博士にもなりました。そして、毎月五冊のペースで本も執筆していました。 


 仕事に対する姿勢はたいへん厳しいものでした。会議の時間に少しでも遅れると、会議室に鍵をかけてしまい、入れてくれないこともありました。営業に出かけたとき、私が大切な資料を忘れてきたことを知ると、その場で「もう帰っていい。後は私がやる」と帰されたこともありました。厳し過ぎるモーレツビジネスマン。そんなミスターAのことを、周囲の人はあまりよく言いませんでしたが、私は彼を尊敬していました。 


 ミスターAは非常に仕事ができる反面、謙虚な人でもあったのです。私のデスクにやってきては、「教えてくれ」を連発しました。日本人である私の考え方や価値観が、自分とは違っていることをよく知っていた彼は、私の考えを聞くことで、自分も学ぼうと思っていたようでした。 


 ミスターAは国際税務に詳しく、講演もこなすほどでしたが、その専門分野の資料を私に読ませ、意見を聞かせてくれと頼まれたこともありました。私が意見を言うと、それを素早くメモし、ほぼ仕上がっていた報告書に取り入れました。その時私は、「彼の質問にはいい加減には答えられないな」と緊張し、さらに勉強をすることを自分に課しました。 


 ミスターAとの仕事の現場は私にとって道場であり、戦場でしたが、その時の経験が血となり肉となって、後の私を支えてくれたことは間違いありません。