「成長してほしいから『愛のムチ』として叱られる。期待されなくなったら、いくらミスや失敗をしても叱られなくなることを肝に銘じよう」



 新入社員の頃、30分に一回は、上司や先輩から怒鳴られていました。

時には、物が投げられたり、殴られるのではないかと思わさせられるぐらいの形相です。とにかくよく罵倒されました。

報告書や資料を作成して持って行っても、ちょっと見ただけで、その場で破かれ、捨てられることもしょっちゅうでした。

 最初のうちは、自分がバカでダメだから、ミスや失敗ばかりしていて職場の皆さんに迷惑をかけっぱなしなので、しょうがないと思っていました。

 しかし、あまりにも頻繁に叱られるので、さすがの私も落ち込み続けました。

来る日も来る日も叱られ続けました。それも段々頻度が多くなっていきました。

ある時、遂に限界を感じたのです。

「この人達は、もしかしたら、仕事があまりにもできず、お荷物になっている僕のことが嫌っているのではないだろうか……」

 段々人間不信にもなっていきました。職場にいることが辛くなり、朝出社する際、恐怖のあまり、激しい腹痛をおこしたり、脂汗が出てくるのです。


そんなこともあり、職場でよほど私がお荷物なのだと察知し、遂に辞める決意をしたのでした。

そして、一番お世話になり、尊敬する先輩にその旨を伝えに行ったところ、しみじみと言われました。

「浜口は、『親の心子知らず』という言葉知ってるか? 同様に、皆お前に早く成長してもらいたいと真剣に願っているんだぞ。でなければ、皆忙しいんだから、一々お前にかまってないよ。ミスや失敗したって、期待してなければ、無視するだけだよ。叱る方も大変なんだぞ」

「はっー。でも私だけ叱られているように見えるのですが……」

「そりゃそうだろう。うちの職場で新人はお前だけなんだから。1年もいれば、誰が何を重視しているかわかってきて、そつなく仕事ができるようになるから。そんな風に息が合うのうになれば、頻繁に叱る必要性もなくなるからね」

「でも、本当に、私は期待されているのでしょうか? こんなに仕事ができないのに……? ずーと、こんな状態かも知れないのに?」

「そうでなかったら、もうとっくにクビになってるよ。お前は、確かにミスや失敗が多いよ。でも、何を頼んでも一生懸命やることで、皆がお前の将来性を評価していることも確かだ」

「しかし、誰からも褒められたことはないのですが?」

「当たり前だろう、仕事でまだ成果を出していないのだから。頑張っている姿勢だけじゃダメだ。我々は、結果を出して初めてプロとして評価されるのだから」

「わかりました。もう少し頑張ってみます」

 

実はその時はその先輩の言うことは、まだピンときていませんでした。でも、私が部下を持つようになった時、その先輩の言っていたことが真実であることが初めて痛いほどわかったのです。

 それもそうです。今度は、私自身が部下に対して親と同じように接するようになったのですから。


 今でも、私は見込みのある部下に対しては、遠慮なく厳しく叱ります。まさに親のように、です。

「バカやろう! 何度同じことを言ったらわかるんだよ。大体お前は人の大事な話をメモもしないで聞いているから、すぐ忘れて言われたことができないんだ。一度言われたら、二度と同じことを言われないようにしろよ! 今度同じ間違いをしたら、クビだぞ。いいな、覚えておけ!」

 叫びながら、思い出すのです。昔同じように叱られていた自分の姿を。

 そして、昔の上司や先輩に感謝の念でいっぱいになります。

「忍耐強くここまで育ててくれて本当にありがとうございます。お陰様で、今は叱れる立場となりました。今になって、あの時の親心が痛いようにわかるようになりました。皆さんのそんな真心がわからない不肖な部下ですみませんでした」と。